「私たちの知らない平成」が面白い

Z世代が先導するレトロブームも、いくつかのバリエーションがあります。昭和レトロブームはここ数年かなり流行しましたが、2021年後半からは飽きが出てきました。

昭和レトロのエッセンスはシンプルで丁寧な暮らし、庶民的な和み感などでしたが、彼らが次に飛びついたのが大正レトロです。大正レトロは和洋折衷、高級感のあるアンティークを旨としており、洋装のレンタルや大正ロマン風の着付けをしてくれるサービスに注目が集まっています。大正時代を舞台にした『鬼滅の刃』の大ヒットも影響しているでしょう。

Z世代がまだ生まれていない平成初期(1990年代)、あるいは物心ついていない平成中期(2000年代前半)を自分たちの知らない平成と捉え、「平成ミステリアス」として面白がったり愛でたりする風潮もあります。

2000年前後に流行したファッション、いわゆるY2Kファッションは欧米でもトレンドですが、それのいわば日本版。

Z世代にも人気で実写映画化もされたマンガ『東京リベンジャーズ』は主人公が2005年、つまり平成中期にタイムスリップする設定でした。

平成ミステリアスの一例としては、派手な加工や落書き文字をたくさん書き入れるプリクラ「平成ギャルプリ」。現在のプリクラは顔を盛ることに特化しているため、背景は無地で落書きなどはしないシンプルなものが一般的。しかしあえて時代に逆行する平成っぽいプリクラ加工が人気なのです。

写真=iStock.com/epicurean
※写真はイメージです

また、ネットでガラケーの画像を探し、その画面部分に自分たちの写真をはめ込む「ガラケー風加工」という遊びもあります。写真は時代感を出すためにあえて画質を落とす。実に手の込んだ遊戯ですね。まさしく平成レトロ。

オジサンたちの悲しき勘違い

「若い女性」のイメージが2000年前後くらいのギャル(渋谷センター街、ガングロ、短い丈のスカート、ルーズソックス)で止まっている年長者からすれば、プリクラにしろガラケーにしろ、その投稿された写真だけを見たら「ギャルというのは今でもずっとこんな感じなんだ」と勘違いしてしまうかもしれません。

実際、勘違いしている大企業の50、60代は多いと思います。

佐藤可士和ですら狙いを外した衝撃

実は、このようなねじれた勘違いは実際に起こっています。2021年11月、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんがプロデュースした「くら寿司」の新店舗が、若者のメッカである東京・原宿にオープンしました。

1965年生まれ、博報堂を経て2000年に独立した佐藤さんは紛れもなく平成を代表する第一線のクリエイティブディレクターです。

著名な広告仕事としては、ホンダステップワゴン、大塚製薬のカロリーメイト。ブランディングにキリンビール「極生」「生黒」、楽天、ホンダ「Nシリーズ」、セブン‐イレブンのセブンカフェデザインなど。ユニクロやGUのロゴ、SMAPのアルバムジャケット、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIのロゴや空間ディレクションなども手掛けています。

2021年には国立新美術館で「佐藤可士和展」が開催され、広告業界関係者、メディア関係者、デザイン業界人などを中心に多くの人が訪れました。

そんな佐藤さんが、「日本の伝統文化×トウキョウ・ポップカルチャー」をテーマに掲げ、Z世代向けに「世界一映える寿司屋」を目指したのがこの新店舗です。店舗はメディアに取り上げられ上々の評判でした。

ところが、私は実際にその店舗に足を運んだZ世代にヒアリングして衝撃を受けました。彼彼女らは決して「自分たち世代向けの店舗」だと感じていなかったのです。

では何か。彼女らの抱いた印象は「面白い、昔の平成っぽい店」でした。なんという皮肉でしょうか。