日米欧と中国では「目指す未来」がまったく違う

――日本は米国や欧州各国とも、科学技術の競争をしている。中国との競争はそれとは違うのか。

全く違う。日米欧など西側先進諸国と中国は、国際秩序に関する考えで大きな隔たりがある。西側先進諸国が目指す秩序は「自由で開かれた、法の支配に基づく世界」だ。それぞれの国が平等で、法の支配、自由を尊重するというものだ。

中国が目指す秩序は何か。習主席は頻繁に「新型国際関係」という言葉を使うが、西側主導の秩序への挑戦にほかならない。「自由、人権、民主主義」といった日米欧の価値観に真っ向から挑戦している。中国共産党による一党支配が自由や平等、法の支配とはほど遠いものであることは、中国が新疆ウイグル自治区や香港で行っていることを見れば明らかだ。対外関係でも、他国と対等なつながりを持とうとしているようには見えない。

習主席の言う「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」に基づき、中国を頂点としたピラミッド型の国家連合を目指しているというのが本質だ。「一帯一路」構想の一環でアジアやアフリカの途上国に、インフラ整備のための桁違いの投資を行っているが、単なる経済協力ではない。それは、しばしば当該国の財政を圧迫し、「援助」自体がエコノミック・ステートクラフト化している。最終的に目指しているのは、中国の資金を背景とした影響力の行使だ。

中国は、単なる技術競争をしているだけではない。習主席の視線の先には、我々西側先進諸国が想像するのと全く異なる人類の未来が広がっている。

日本にとっての軍事的な脅威は増していく

――中国の国家体制は盤石なのか。

短期的に習主席の基盤が固まっていることは間違いないと思う。

北村滋、大藪剛史(聞き手・構成)『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』(中央公論新社)

ただ、習主席は、政権全体の動揺を懸念していると思われる。中国共産党とは異なる価値を信じる組織に対する恐れは、日本人が考える以上に大きい。チベット、台湾、ウイグル、民主派、法輪功の5つを彼らは「五毒」と称し、いずれも中国共産党の体制に服さないものとして徹底的に弾圧していることが、その表れだろう。中国の歴史を見ると平和的、民主的な政権移行はなく、王朝が代わることにより政権が代わるというのが歴史が示すところだ。中国共産党は王朝ではないが、民主的政権交代を容認しない中国共産党による一党支配であり、そうした中国自身の歴史が常に念頭にあると思う。

習近平政権は、「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」を実現するために、富強、強軍の政策を継続することは間違いない。日本にとって軍事的な脅威は増していくことを覚悟しなければならない。

(聞き手・構成=大藪剛史)
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