中国は2008年から外国の優秀な研究者を集める「千人計画」を進めている。目的は一体何なのか。元国家安全保障局長の北村滋さんは「破格の待遇で研究者を呼んでいる。中国が行っているのは単なる技術競争ではない」という――。

※本稿は、北村滋、大藪剛史(聞き手・構成)『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

中国国旗
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中国の論文数は2016年に世界トップになった

――中国の科学発展の歴史について聞きたい。

中国は1950年代から、核兵器と弾道ミサイル、人工衛星の開発を並行して行う「両弾一星」のスローガンを掲げて、軍主導の宇宙開発に乗り出した。有人宇宙活動や月探査など、現在の宇宙事業も、軍が密接に関与しながら進められている。

文化大革命(66~76年)では知識人が迫害され、科学技術の発展が遅れた。だが、最高実力者の鄧小平氏が70年代後半から「国家の根幹は科学技術力にある」として立て直しを図った。90年代に海外から中国人留学生を呼び戻す「海亀政策」を進め、先端技術を取り込んだ。94年には、国外で活躍する優秀な人材を中国に呼び戻す政策の一環として「百人計画」が始まった。

中国製のスーパーコンピューターが2010年、計算速度で世界一を達成し、13年には無人探査機「嫦娥じょうが3号」が月面探査に成功した。科学の発展は、論文数にも表れている。日本の文部科学省の集計では、1981年に1800本だった中国の論文数は、2015年までに160倍増となった。全米科学財団(NSF)の報告書によると、16年に中国が初めて米国を抜いて世界トップに立ったようだ。

外国から優秀な人材を集める「千人計画」

中国版GPSと呼ばれるグローバル衛星測位システム「北斗」が既に運用されている。人工衛星は、艦艇や航空機の位置把握、ミサイル誘導などの軍事目的にも役立つ。

21年3月の全国人民代表大会(全人代)で採択された新5カ年計画には、「科学技術の自立自強を国の発展の戦略的な支えとする」との文言が盛り込まれた。最先端の民間技術を積極的に軍事に転用する国家戦略「軍民融合」の下、今後も、世界トップレベルの研究者の招請や企業買収などを通じ、最先端技術を吸収していくだろう。

軍民融合の一環として、中国は「千人計画」を進めている。百人計画が成功したのを受けて、外国から優秀な人材を集める中国政府の人材招致プロジェクトだ。国家レベルでは08年から実施されている。採用される日本人研究者も増えている。

――外国人研究者は破格の待遇で集められているようだ。読売新聞の取材では、研究経費として500万元(約8600万円)が補助され、100万元(約1700万円)の一時金が与えられる例もあったようだ。

招聘に応じた日本人研究者には、「日本の大学だと研究費が年数十万円ということもある。日本の研究者は少ない研究費を奪い合っている。中国からの資金補助はとても助かる」と話す人もいる。