「その中で、2021年の『アサヒ ドライゼロ』は前年比113%で、市場全体よりもさらに伸びています。ノンアルコールビールテイスト飲料市場(※)では6年連続売り上げ首位です。ドライゼロはビールらしい味わいが好評ですが、ノンアル市場全体が伸びた最も大きな理由は、健康意識の高まりです。
社会人の場合、コロナ前に比べて出社日数も少なくなり、在宅勤務が増えました。得意先への訪問や出張も制限されるなど運動不足になりがちです。自宅でお酒を飲む機会が増えた人も、時にはノンアルに変えて調整したいなど、健康志向が追い風となりました」
この2年で“コロナ太り”した人もおり、健康意識がより強まったのだろう。
※インテージSRI+ノンアルコールビールテイスト飲料市場 2016年1月~2021年12月 累計販売金額 7業態(SM・CVS・酒DS・一般酒店・業務用酒店・DRUG・ホームセンター)計
試行錯誤の末、ビールの味にかなり近くなった
昨年、競合他社に取材してこんな話を聞いた。各社の共通認識のようだ。
「かつては、ビールが飲めないときの代替品という位置づけでしたが、今は消費者から積極的に選ばれます。味も進化してビールの味に近づいています」
この春「アサヒ ドライゼロ」はリニューアルを実施した。吉岡さんはこう説明する。
「原材料の配合を見直し、より麦の香りや飲みごたえ、のどごし、キレを強化しました。ビール特有の“発酵由来の複雑な香気成分”を再現するため、通常のビールからアルコール分を除去した際に、アルコールと共に喪失してしまう香気成分について、香料会社と共同で研究・開発し、ビール感を高めたのです」
味の好みは、人によって分かれるが、周囲の仕事関係者に話を聞くと、「ドライゼロが一番ビールっぽい」という愛飲家が多い。
同ブランドが発売されたのは2012年、今年で10周年を迎えた。その前身となる商品にも関わってきた吉岡さんにとって、10年という歳月は感慨深いようだ。
「おいしさは進化しましたが、お客様の嗜好もどんどん進化します。ブランドが掲げる『目指したのは、最もビールに近い味』にはゴールがないと思っています」
20代~60代で飲酒を楽しむ人は「半数」しかいない
ところでアサヒビールといえば、「アサヒ スーパードライ」が代名詞だ。1987年に発売されたこの商品によってビール業界の勢力図が変わった。35年たつ現在も、ビール類市場で売上首位のブランドだ。その会社が、なぜノンアルコールに力を入れているのか?
「今まで酒類メーカーは、お酒を飲む楽しさを訴求してきました。でも体質的に飲めない人、さまざまな事情で飲まない人もいます。会社として、そうした人も尊重し、飲料を選ぶ楽しさを伝えたいのです」
後述する「酒離れ」もあるのだろう。具体的な数字も挙げて説明する。
「日本の20代から60代の人口は約8000万人。このうち日常的に飲酒を楽しむ人が約2000万人、飲酒が月1回未満の人も約2000万人。残りの約4000万人が飲めない人、または、あえて飲まない人になります」
同社は「スマドリ」(スマートドリンキング)という言葉で、飲めない人、あえて飲まない人も楽しめる飲み方の多様性を訴求する。吉岡さんが所属する「新価値創造推進部」の部署名は、その思いを込めたのだろう。