開成の校長が生徒と親に「家庭で家事を」と言う理由

一方で、開成の生徒は、どうしても似た家庭環境の出身で、同じような大学に進んでいく。多様性が少ないという側面があります。

そこで私は、海外大学への直接進学や大学進学後の海外留学を生徒たちに強く勧めています。一歩、海外に出ると、いきなり自分がマイノリティーになります。言語も文化もまったく異なる環境に身を置くことで、多様性とは何かということが、一番よく理解できます。

開成中学校・高等学校校長の野水勉さん(撮影=小松史郎)

そのときのために、家庭でぜひやらせてほしいのが、「家事」です。海外で1人暮らしをするなら、家事はすべて自分で行わなければならない。家事は大人として必須のスキルです。

まずは料理。海外で誰も自分のことを知らない、守ってくれる親もいない環境では、心身ともに健康でなければあっという間にくじけてしまう。掃除もしかり。清潔な空間を保つことで、気持ちの健全性が維持できます。家事を自分でするようになれば、親の立場になってものを考えることもできるようになります。

大人のスキルとしての家事全般は、一朝一夕で身に付くものではありません。小学生のうちから、どんどんお手伝いをさせてほしいと思います。

よく言われることですが、料理や掃除は、科学実験やプログラミング的思考を育む大事な体験です。結果を見通しながらプロセスを考え、次の手順のために優先すべきことは何かを常に思考する必要がありますからね。

家事に限らず、小学生時代には、いろいろな体験をしてほしいと思います。まずは大好きなことを見つけてほしい。興味のあることを一つでいいから見つけてほしい。

開成の生徒には、様々な個性や才能のある子が多いですが、受験勉強だけしてきた子は、のびのびと飛躍できないケースが少なくありません。「勉強はできるけど、ほかには何もない」という子は、仲間づくりにも苦労します。

ですから、小学生時代はいろいろな物事に興味を持ってほしい。好奇心を持って何かを調べることは楽しいことですし、本を読んだり勉強をしたりすることも苦ではなくなります。趣味でもいいし、歴史でも自然現象でもいい。いろいろなことに興味を持って、自分なりの考えを持って、その考えを友人や親、教師にぶつけてきてほしい。

親御さんには、そんなお子さんを応援してやってほしいですね。たとえ受験期であっても「今は勉強優先」ではなく、興味関心を最優先させてやってください。

(構成=田中義厚)
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