地政学的に恵まれた条件を使いこなした信長

最新鋭の武器である鉄砲は、もちろん火薬がないと使うことができません。この火薬の原材料はというと木炭、硫黄、硝石ですが、木炭や硫黄は日本では豊富に手に入れることができます。しかし、硝石は日本国内では産出されないのです。のちに硝石を作る技術が確立されて、国内でも生産が可能になりますが、戦国時代においては交易を通じて外国から輸入しないと手に入らない貴重品でした。

本郷和人『「合戦」の日本史 城攻め、奇襲、兵站、陣形のリアル』(中公新書ラクレ)

つまり、鉄砲を使うにはどうしても交易をするための港がいるのです。ですから、早くに堺を押さえて鉄砲と火薬を入手することに成功した信長はやはり一枚上手です。生まれてきた場所がたまたま豊かな土地だったということも大きいのですが、その地政学的に恵まれた条件を最大限に使いこなすことができたところが、信長の秀でた才覚と言えるでしょう。

このように見てくると、軍事とは経済だとも言うことができるという意味がおわかりいただけたのではないかと思います。やはりリアルな合戦の勝ち負けは、一騎当千の英雄豪傑や奇抜な戦術・戦法によって決まるのではありません。戦いは数であり、それを支える経済がしっかりとしていなくてはならない。リアルな合戦というのは、リアルな経済ということでもあるのです。

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