敵に対しては友好的でないといけない

しかし一般的に、今ならタリバンや中国の一部との間がそうですが、対話を持ちようがない場合、私たちにできるのは自衛のみです。それが唯一残された対処法です。

ただ、壁を破ることはできます。友情と愛によってしか壁は破れません。啓蒙主義の偉大な哲学者であるスピノザ(注3)は著書『国家(注4)で、敵に対してはことのほか友好的でなければならないと主張しています。

彼はキリスト教徒ではありませんでした。ユダヤ人哲学者として有名な人物です。ですからこれはキリスト教の考え方ではありません。彼がこう言ったのは敵の意表を突くことだからです。敵はあなたが攻撃してくると予想しています。

※注3:バルフ・デ・スピノザ(1632-1677)オランダの哲学者。従来の哲学や宗教がそれまで「世界の創造者」「超越者」としてみなしていた神の存在を、自然世界全体の別名であると考える「無神論的汎神論」の立場を取った。
※注4:『エチカ』スピノザが1677年に著した書籍。人間は自らが「必然の世界」、すなわち決定論的な法則に従う自然の一部だと認識することで、偏見や情念から解放され、至福に至ると述べた。

日本は交渉において有利な立場にいる

殺す意図を持たず敵を受容するのは、相手の敵対姿勢を崩す戦略です。これも戦略なのです。相手の想定外の動きであるわけです。敵に勝つためには想定外のことをする必要があります。

マルクス・ガブリエル著、大野和基インタビュー・編、月谷真紀訳『わかりあえない他者と生きる』(PHP新書)

実際、タリバンは日本人にアフガニスタン国内に留まってほしいと公式に発言しました。ですから方法は見出せるかもしれません。日本が調停役を務めることが多いのはよく知っています。例えばイランとも学術的に強いつながりがありますね。定期的にイランを訪れている日本人哲学者に数多く出会いました。日本は交渉において非常に有利な立場にいると思います。西側の中でもキリスト教国ではないので、交渉しやすいのです。アフガニスタンに対する侵略の歴史もありません。人々が日本に行く理由もわかります。

そこで日本に提案があります。

日本はもっとスイスのような役割を果たしてもいい。日本は非常に現代的な西側のリベラルな民主主義国である一方、ムスリムへの植民地主義や帝国主義の歴史がないので、中立的な場になれます。もちろん日本にも帝国主義の過去はありますが、それはまた別の歴史です。イスラム教国を侵略したことはありませんでした。そこを生かせる可能性があります。

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