「物理的バリア」より「心理的バリア」が根深い日本
なぜ海外と日本とで、車いすを巡る環境に差があるのだろうか。
「障害者の社会参加推進等に関する国際調査(内閣府 2007年実施)」によると、ドイツやアメリカでは9割近い人が、障害のある人を前にしても「あまり・全く意識せず(気軽に)接する」と回答している。一方、日本では6割の人が「意識する」としている。
日本社会が障害の有無で区別する点を、障害のある子どもを持つ須藤シンジ氏(NPO 法人ピープルデザイン研究所代表理事)は「この心理的バリアは物理的なバリアより根深い」と訴える。
筆者はこの心理的バリアが、法整備やインフラ整備、情報の出し方、そして外出そのものに対する心理的負担になっているのではないかと考えている。心理的バリアが色濃く残っている要因はいくつか考えられるが、1つは個人の捉え方や社会形成の違いにあるようだ。
アメリカでは障害者も「個人の自由」を主張する
個人の人権や自由を尊重することで社会全体が幸福になるという「個人主義」と、社会全体の幸福を実現することで個人の幸せを実現するという「社会主義」の2つに分類する考え方がある。
50カ国と3つの地域を個人主義指数で比較すると、上位は1位アメリカ、2位オーストラリア、3位カナダ、4位カナダとオランダ、6位ニュージーランド、7位イタリア、8位デンマーク、10位スウェーデン、となる。日本は22位で、日本を含めたアジア諸国は個人主義の値が低い。
示村陽一氏の著書『異文化社会アメリカ』によると、最も個人主義の値の高いアメリカは、多民族・多人種・多文化社会で、「社会は個々が自立した個人であることを求め、社会システムは自立した個人を助長するシステムになっている」という。
NPO法人ヒューマンケア協会代表の中西正司氏は、アメリカでは障害者も「個人の自立」を主張する活動が活発で、自立生活(IL)運動や障害者の人権をめぐる活動が1970年代の中頃までに形になり、1990年障害のあるアメリカ人法(ADA)につながった、と指摘している。
障害による差別を禁止するこの法律で、個人の人権や自由、尊厳を実現するためのインフラ作りが必須となり、冒頭で紹介したように、障害者でも一人で移動しやすい環境が整えられていった。また海外に軍を派遣しているアメリカでは、帰国した傷痍軍人のためにもインフラが整えられているのだそうだ。