1970年代にアメリカ人生物学者のローズ・フリッシュは、小食のアスリートや摂食障害により体脂肪が少ない女性は初潮が遅く、妊娠しにくいことを発見しました。そして月経が始まるには少なくとも17%の体脂肪が必要であり、この最低基準を満たし続けることが、月経の持続に欠かせないとも発表しました。

実際のところ、脂肪と生殖力はどのようにかかわり合っているのでしょう。そのメカニズムは謎でしたが、レプチンが発見されたことで変わりました。

脂肪のホルモンが食欲、繁殖力を左右する

先ほど紹介したObマウスはレプチンを産生できないとともに、繁殖力もなかったのです。

そしてレプチンを投与すると、食欲が減退しただけでなく、繁殖できるようになりました。つまりレプチンが脂肪残存量を伝える脳の部位は、生殖を司るセンターにもつながっていたというわけです。

レプチンが少なすぎて、この脳内センターから信号が送られないと、排卵が起こらず女性は妊娠できず、もちろん月経も止まるのです。逆の場合もあります。体脂肪が多すぎるとレプチンが大量に産生され、その結果、初潮がかなり早く来る例も多く確認されています。

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さらにレプチンは、妊娠中も大活躍です。胎盤内でもレプチンが産生されることが判明しているのです。肥満者に見られるのと同じように、妊娠中期はレプチン量が多くなりますが、その影響をあまり受けなくなります。おそらくこれが、妊婦の食欲が旺盛な理由です。

この効果によって、生まれてくる赤ちゃんのためにもっと多くの脂肪をため込めるようになるのです。母親の脂肪は赤ちゃんにとっても、とても大切なものなのです。

脂肪が脂肪を減らす…「褐色脂肪」の発見

脂肪にはさらに驚くべき力があります。それは、「脂肪を減らす」というものです。

じつは脂肪には、蓄える役割がある「白色脂肪」と、それとは異なる機能を持つ「褐色脂肪」が存在します。

例えば冬眠する動物たちは、多量の褐色脂肪を有しています。冬眠から抜け出す直前に体を短時間で温める必要がある彼らは、身体内に、脂肪と糖を素早く熱に換えるヒーターを持っています。それが、褐色脂肪です。

人間の赤ちゃんも大量の褐色脂肪を、とくに肩甲骨のまわりに身につけています。思春期を過ぎると筋肉量が増加して効率良く体を震わせられるようになるため、褐色脂肪のほとんどは消えると思われていましたが、最近の研究でそうでもないことがわかりました。

およそ15年前、核医学の医師が癌細胞を見つけるためのPETスキャン中に、成人の首と大動脈周辺に褐色脂肪を(再)発見したのです。