このホルモンには、ギリシャ語の「痩せている」という意味の単語にちなんで「レプチン」という名前が付けられました。これが、脂肪で産生されるホルモンとして発見された第1号です。
ホルモンは受容体に入って初めて効力を発揮できます。レプチンの受容体は身体の様々な場所にあり、脳の満腹センターにも存在しています。脂肪量が多いDbマウスもたくさんのレプチンを産生していましたが、レプチン受容体が欠陥していたために、満腹感を生み出せなかったのです。
だから普通のマウスと結合された時、今度は過剰なレプチンが普通のマウスに流れ込み、食欲を激減させ、しまいには餓死させたのです。
抗肥満ホルモン「レプチン」が食欲を抑える
これらはマウスの実験でしたが、では人体において、レプチンはどのような影響を及ぼすのでしょうか。
レプチンが発見されると、極度に太った2人の子どもが研究対象として選ばれ、調査されました。すると、血中のレプチンは計測できないほど低いことが分かりました。遺伝子に変異が見られ、脂肪でレプチンを産生できていなかったため、ずっと消えることのない飢餓感に苛まれ、食べ続けていたのです。
1998年、2人のうち9歳の姉に合成レプチンを使用した治療が施され、1年後、治療は成功し、少女が1年間で16キロ以上減量したと発表されました。この結果から、レプチンは脂肪で産生され、そのレプチンが脳内の受容体と結びつくと、満腹感を覚え、食後の空腹感が消えることがわかりました。
別の研究では、レプチンが脂肪を燃やすように刺激を与えることも明らかになりました。そのため、レプチンは「抗肥満ホルモン」と呼ばれています。
レプチンは脂肪が多いほどより多く産生され、血中に分泌されます。逆に脂肪が少なければ血中のレプチン値も低く、満腹を感じる信号も減り、身体は脂肪をより多く蓄えようと空腹感を生み出します。
つまりレプチンは、体内の「脂肪センサー」なのです。
脂肪は「妊娠」するために不可欠
脂肪ホルモンにはもっと驚くべきことが隠されています。そのひとつが、「妊娠」への影響です。それは体操選手と一般の女性との違いによってわかります。
同年代の女子たちと比べると、体操選手は身長が低く、痩せ型になることがよく知られています。食事制限と激しいトレーニングによって体脂肪率も低いのです。そして驚くべきことに、平均的な女子は12.5~13.5歳の間に初潮を迎えますが、トップレベルの体操選手の場合は14.3~15.6歳の間と、平均よりも遅いのです。