食事の量が同じでも、太る人と太らない人がいる。この違いはどこにあるのか。オランダ人医師らの共著『痩せる脂肪 もっとも誤解されている器官の驚くべき事実』(クロスメディア・パブリッシング)より、痩せている人ほど有しているという「褐色脂肪」についての解説を紹介する――。
食事をする女性
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「奇妙なマウス」が証明した脂肪の働き

1940年代に、アメリカのメーン州にある大きな研究所で、ある“奇妙なマウス”が生まれました。

その研究所では遺伝子もDNAも同一の実験用マウスが飼育されていました。1949年夏、実験スタッフが異変に気づきました。数匹のマウスの体重が、生後あまり経たないうちに他のマウスに比べて重くなったのです。

このマウスは動きも活発でなく、それなのに食べる量は多く、そのうちの1匹はあまりの空腹に、餌箱に頭を突っ込んだまま寝転がり、一日中食べ続けていました。

太ったマウスのDNAを調べたところ、遺伝子の変異が起こっていました。その変異遺伝子はOb(肥満を表す英単語obesityの頭2文字)と名付けられました。

そしてこの発見からあまり時間を置かずして、同じ研究所でまた、肥満になり、凄まじい食欲を見せるマウスが生まれました。先ほどのObマウスとは違い、こちらは若くして糖尿病になりました。そのため、このマウスの変異遺伝子はDb(糖尿病を表す英単語diabetesから)と名づけられました。

Ob遺伝子とDb遺伝子の影響を調べるために、実験が行われました。

まず、「普通」のマウスと「Ob(肥満)マウス」を結び付け、2体が同一の血液源を持つようにしました。その結果、Obマウスの食欲がなくなり、体重が急激に落ち、結合されていた普通のネズミと同じくらい痩せてしまったのです。

Obマウスの血中には満腹を感じさせるものは含まれていませんでした。つまり、普通のマウスがなにかしらの物質をつくり出し、それが血を介してObマウスに送られ、影響を及ぼしたのです。

次に、「Db(糖尿病)マウス」を普通のマウスと結合させる実験も行われました。すると今度は、普通のマウスが急激に痩せ、50日間で餓死したのです。

この結果から言えるのは、Obマウスと異なりDbマウスは、普通のマウスの血中を流れていた「ある物質」に抵抗力を持っていたということです。

痩せるには脂肪が生み出す「ホルモン」が必要

1994年になって初めて、この物質は普通のマウスの脂肪内で大量に産生されるホルモンであり、Obマウスの脂肪ではまったくつくられていなかったとわかりました。

このホルモンが普通のマウスから流れ込んだため、Obマウスは満腹感でいっぱいになり、食欲がなくなってしまったのです。