中国政府が「危ない」とスペースXに苦情
昨年12月、中国政府が、国連宇宙部に苦情を通知した。スペースXの小型衛星が7月と10月の2回にわたって中国の宇宙ステーションに接近し、衝突の恐れがあったためだ。ステーションに滞在する宇宙飛行士の安全確保のために、中国はステーションを回避させざるを得なくなったという。宇宙条約では、民間企業の打ち上げた衛星でも、その企業が属する国の責任になる。中国が国連に申し立てたのも、スペースXを批判したいというだけでなく、激しさを増す米中の宇宙覇権争いの一端だと見られる。
小型衛星の群れが配備される低軌道は、中国の宇宙ステーションや国際宇宙ステーション(ISS)に近い。これからも各国の宇宙飛行士をリスクにさらす危険がある。日本の宇宙ベンチャーも同じような問題を起こしてしまう恐れがある。
小型衛星が多くなるとトラブルも生む。膨大な数の衛星が宇宙に配備されれば、衛星同士の衝突リスクが高くなる。衝突破片がばらまかれれば、宇宙空間に漂うゴミ(デブリ)になる。
現在でも宇宙には10センチ以上のゴミが2万個、小さいものを合わせると1億個以上あるという。それらのゴミが猛スピードで飛び回り、宇宙飛行士、宇宙ステーション、宇宙旅行客、他の衛星などを危険にさらす。
天文学者からは天体観測に与える悪影響が指摘されている。専門家だけでなく、一般の人からも地球環境問題を念頭に、宇宙の持続的利用を脅かすという批判の声が上がる。
各国で宇宙の「場所取り」が行われている
小型衛星コンステレーション事業は、国内外を問わず走り出したばかりだ。技術や資金不足で頓挫する懸念がある。実際、2020年に英国の小型コンステレーション企業「ワンウェブ」の経営が破綻し、英政府とインドの企業で再生策を講じているという。
故障や寿命切れで不要になった衛星は、他の衛星の邪魔にならないように、軌道から離脱させたり、大気圏に再突入させて燃やしたりする。だが、計画の頓挫で、そのまま放置されれば、衝突や宇宙ゴミ化のリスクはいっそう増す。頓挫しなくても使用済みの衛星を軌道に捨てておく事態も考えられる。
衛星コンステレーション計画の中には、宇宙の低軌道の場所取りが目的と見られるものもある。場所を確保して悪用する懸念がある。国連のITU(国際電気通信連合)の会議で何度も問題になってきた。ITUは規制ルールを2019年に作ったが、各国の利害が衝突した結果、その気になれば通り抜ける道もある、緩いものになっている。
「ダボス会議」で知られるスイスの非営利団体「世界経済フォーラム」が1月11日に発表した「グローバルリスク報告書2022年版」では、宇宙空間での民間活動と公共活動が増加し、宇宙空間が新たなリスク領域になっていることや、宇宙活動の増加によって衛星同士の衝突リスクがあることなどを指摘した。