大きなハサミと硬い甲皮を持つ雄が交尾を許される

雌は、稚ガニから10回の脱皮を繰り返した後、夏から秋にかけて最終脱皮した直後に交尾し、初産卵を行って受精卵を抱卵する。1年半の抱卵期間を経て、翌々年の2〜3月に幼生が孵化する。幼生が孵化した直後に、雌ガニはそのまま脱皮することなく2回目の産卵を行い抱卵する。このとき抱卵した受精卵は、初産卵のときと違って1年の抱卵期間を経て、翌年の2〜3月に幼生が孵化する。孵化が終わると次の産卵を行い、雌ガニは生涯に5〜6回の産卵を行う。

雄は、早いものでは10回の脱皮後の第11齢期、遅いものでも12回の脱皮後の第13齢期になると親ガニになり、雌と交尾することができる。雌雄の寿命は、15年ほどである。

雄ガニと雌ガニは、普段は別々の群れを作って、一緒に群れることはないが、交尾期になると同じ場所に集まって群れるようになる。このときの、雄と雌の出会いには、成熟した雌の触角腺から尿とともに出る性フェロモンがかかわっていると考えられている。雌雄が集まった群れの中で、雌と交尾できるのは、より大きなハサミ、そしてより硬い甲皮を持つ雄である。

ズワイガニの雄は右利きが多い

ズワイガニの交尾のありさまは、他のエビ・カニとやや異なっている。まず、大きな雄が、小さな成熟した雌の胸脚を片方のハサミを使って挟み、軽々と持ち上げ確保する。そして、1週間ほど一緒に過ごした後に、雌が脱皮すると雄は雌と40分ほどかけて、互いの腹節を合わせる、つまり向かい合って交尾し、精子が入った精包を雌に受け渡す。

雄と交尾して抱卵した雌ガニの胸脚には、交尾の折に雄のハサミで挟まれたときにできた「傷」の痕跡が残っている。読者もズワイガニの雌ガニを食べるときに、注意深く胸脚の裏側を見れば「傷」の痕跡を見つけることができる。傷跡は、カニの腹面から見て右側の第2胸脚の長節に認められることが多いことから、雄ガニは右側のハサミを使って雌ガニの第2胸脚を挟んで交尾に移行しているようである。

撮影=矢野勲
交尾後抱卵したズワイガニの雌(左)。向かって右側の第2胸脚の長節に、交尾のときに雄からハサミで挟まれてできた傷の痕跡(矢印)が見える

このことから想定するとズワイガニの雄は右利きが多いように思える。なお、ズワイガニの雄の左右のハサミは大きさや歯の形状に大きな違いがない。

ところで、胸脚の傷跡はいつできたのかとの疑問が残る。雌の胸脚の傷跡は、最初に雄が雌を確保するときにハサミで掴まれて持ち上げられたときにできたものではない。なぜなら、このときにもし傷ができたとしても、その傷跡はその1週間後に起こる雌の脱皮によって消失するからである。

おそらく、雌の胸脚の傷跡は、雌が脱皮した直後に、雄が雌を押さえて上にかぶさって交尾するときに雄からハサミで強く掴まれてできたものであろう。