雌に全く傷跡を残さない優しい雄も

いっぽう、たくさんチェックしてみると、交尾のときに雄からハサミで挟まれたときにできる傷の痕跡がない個体もわずかだがいる。このことは、雄の中には交尾のさいに雌を優しく扱う雄がいることを示していて実に微笑ましい。

このようにして、雌は雄と交尾し、しばらくしてから成熟した卵を輸卵管から体外に排出するときに、あらかじめ雄との交尾で受け取っていた精包の精子を使って受精させ、腹部に抱卵する。抱卵した受精卵の大きさは0.7mmほどで、1尾の雌ガニから約5万尾ものプレゾエア幼生が孵化する。

プレゾエア幼生は、脱皮するとゾエアI期の幼生になり、その後1カ月ほどでゾエアⅡ期の幼生に、さらにその後1カ月ほどでメガロッパ幼生になる。そして、約1〜3カ月後に甲羅の横幅3㎜ほどの稚ガニになり、海底に着底する。この間の浮遊生活は、3〜5カ月ほどになる。稚ガニは1年に数回脱皮して成長する。

地球温暖化によってズワイガニ漁場が縮小

ところでズワイガニの漁に関して、2020年の米国NOAA(米国海洋大気庁)のアラスカ漁業科学センターの報告によれば、2017年から2019年にかけて、アラスカ沿岸のベーリング海東部のズワイガニ漁で、海底水温の上昇に伴って漁場の縮小という異変が起きているという。

地球の温暖化によって、海面の氷が解けたため、ズワイガニが棲む海底の水温が高いところでは6〜7℃に上昇して、ズワイガニが好んで棲む1〜2℃の冷水プールが大幅に減少した。その結果、これまでズワイガニ漁場では見られなかったマダラが増加し、ズワイガニの稚ガニや幼ガニが捕食されて、その数が大幅に減少したとのことである。また、これまでにない水温上昇が起きたことによって、成長促進効果が働いたのか、これまで捕獲されたことのない大型のズワイガニが発見されたこともあわせて報告されている。

こうした化石燃料の消費によって引き起こされる地球の温暖化によるズワイガニ漁場の水温上昇がさらに広がれば、日本においてもズワイガニ漁場の縮小とズワイガニ資源の減少という深刻な問題が現実化する可能性がある。