たとえば、1日の1000万円の元入れは「借方・現金1000万円」「貸方・資本金1000万円」と、2日の400万円分の仕入れは「借方・商品400万円」「貸方・現金400万円」と、おのおの「仕訳帳」に記載される。その仕訳帳をもとに、「現金」「商品」「資本金」など勘定科目ごとにまとめた「総勘定元帳」を作成する。

複式簿記の特徴は、この「1000万円の元入れ」という一つの取引であっても、「借方・現金1000万円」「貸方・資本金1000万円」と、必ず借方と貸方の両方に記載がなされること。これを会計の世界では「ダブルエントリー」という。

だから、決算作業の過程で数字の辻褄が合わないようなことがあっても、借方と貸方の数字がきちんと記載されているかを調べることで、どこに間違いがあるかをすぐに発見できる。また、最終的に勘定科目ごとにすることで、どこにどの程度のお金がかかっているのかがわかり、財務分析がしやすいというメリットもある。

一方の単式簿記で数字の辻褄が合わなければ、取引ごとの領収書や納品書を引っ張り出してきて、一つひとつ数字をチェックしながら間違いを探していかなくてはならない。とはいえ小学生の小遣い帳ならいざ知らず、自治体の1年間の取引量といったら、何十万、何百万、いや数え切れないくらいの数になるはず。どこに間違いがあったのか、もはや原因追求はお手上げ状態だろう。もちろん、財務分析をしようにも、基になるデータを抽出できない。

自治体で複式簿記が採用されてこなかったのは、記載の手間がかかることと、どのような勘定科目を設け、どのような取引をどの勘定科目にするかといった定義づけが難しいためだと思われる。また、外部監査の義務が課せられておらず、利益追求という概念がない自治体には、財務を分析しようという発想も乏しかったのかもしれない。

今後、自治体も複式簿記を採用し、たとえば「健康保険料」という勘定科目について年齢別の補助科目をつくっておくと、「20代の保険料が少なく、40代からの保険料に頼っている」など、自治体が取り組むべき問題点を浮き彫りにできる。財政が逼迫している自治体は多いし、動かしているのは公金である。隠れた無駄を炙り出すためにも、複式簿記の採用を前向きに考えてもらいたい。

(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)