日本の産業や教育の現場でも……
2020年に、世界販売台数で5年ぶりに世界一に返り咲いたトヨタ自動車。復権の原動力となったのは、レゴのようにパーツごとにクルマを組み立てるモジュール開発と呼ぶ手法の導入だった。
自動車業界では、開発したシャシー、エンジン、トランスミッションなどの共通部品をブロックのように組み合わせて、異なる車種を効率的に生産する方式が定着している。
従来、日本メーカーが得意としてきた、職人技のすりあわせ技術のアンチテーゼとも言われるこの方式は「レゴモデル」と呼ばれ、2010年代前半に、ライバルの独フォルクスワーゲン(VW)グループがいち早く導入した。
レゴモデルを武器にトヨタを猛追したVWは一時、世界販売台数のトップに立ったが、トヨタも2015年からモジュール生産を本格導入し、王者の座を奪還した。
競争の舞台は、ガソリン車から電気自動車(EV)に移りつつあるが、ここでもバッテリーやモーターをブロックのように組み合わせる開発手法が主流になりつつある。
日本の小学校でも必修科目となったプログラミング教育。ここでも、レゴは少なからぬ存在感を示している。子供向けプログラミングで圧倒的な支持を受ける言語「Scratch(スクラッチ)」の誕生には、レゴが深く関わっている。
「スクラッチの基本コンセプトは、ブロックを組み立てるようにプログラムをつくるというもの。レゴから大きなインスピレーションを受けた」。
同言語を無償公開する米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの教授であり、スクラッチの生みの親として知られるミッチェル・レズニックは言う。現在もレゴと共同で、次世代教育についてさまざまな研究を続けている。
イノベーションを誘発する道具として広がる
2000年代以降は社会人の人材開発の場でも、レゴが創造力を解放するツールとして注目を集めている。インターネットやAI(人工知能)の例を見るまでもなく、目まぐるしい技術の進化によって、身につけたスキルはすぐに陳腐化する時代になった。
予測不能な未来の変化に対応するには、過去に蓄積された知識を効率的に詰め込むのではなく、必要な知識は何かと自律的に考え、習得していく発想の転換が求められている。想定外の問題に直面した際に、自ら解決策を見出す創造的な思考力のニーズが高まっているのだ。
レゴには、この創造的思考を鍛える手法がいくつも存在する。自身の経験をレゴで表現する教材、自分の考えをレゴで表現してチームのコミュニケーションを円滑にするワークショップ、レゴで企業戦略を策定するプログラム……。さまざまな取り組みが、世界各地で活発に展開されている。
最先端のインターネット企業の創造性を刺激する一方、最新のモノ作りの現場からプログラミング教育、そして組織活性化の教材まで――。レゴはさまざまなシーンで、イノベーションを誘発する道具として浸透している。