各国で大きく異なる電力事情

そこで、トヨタの主張を私なりに補足して説明してみたい。

まず主張すべきは、各国の電力事情である。ノルウェーのように発電のほぼすべてが再エネで行われている国、フランスのように原子力発電比率が極めて高い国では確かにBEVはカーボンフリーに直結する。ドイツのように発電の再エネ化を積極的に進めている国も、将来的にはBEV化はカーボンフリーに貢献するだろう。

しかし世界を見ればまだまだ火力発電が主体だ。とくに途上国でその傾向が強い。しかもアフリカではまだ電気の届いていない地域も多く、インドでも大都市ですら日常的に停電が起こっている状態だ。

このような地域では、2030年になっても事態が大きく改善される可能性は非常に低いだろう。人々の所得も低く、BEVを普及させることはどう考えても不可能だ。

途上国を支える日本の自動車メーカー

こうした途上国で圧倒的なシェアを持っているのは日本の自動車メーカーである。欧州メーカーは高級車を中心としてわずかな台数を売っているにすぎない。生産台数でトヨタと肩を並べるフォルクスワーゲンも、BEV推進に積極的な欧州と中国だけで販売のほぼ8割を占め、それ以外の地域は非常に少ないのだ。

高級車メーカーは、BEVを買える財力のある限られた富裕層だけを相手にしていればいい(トヨタも、レクサスブランドは2035年に完全BEV化するとしている)。もし日本のメーカーがBEV主体にかじを切るとするならば、このような地域の顧客を見捨てることを意味する。

欧州と中国と富裕層のことだけを考えればいい欧州メーカーとは事情が異なるのだ。途上国では当面は化石燃料に頼らざるを得ないし、高価なBEVを買える層も少ない。そのような地域でCO2排出を少しでも減らすには、高効率エンジンや低価格ハイブリッドの提供が最も適している。理想的ではないかもしれないが、それが最も現実的かつ効果的な方法なのである。