タブーを打ち破るには

では、周囲の人は、DVを受けている人や夫婦、家庭に気づき、手を差し伸べることはできないのだろうか。

数多くの離婚問題を解決に導いてきた、ベリーベスト法律事務所の渡辺裕美子弁護士に聞いた。

「DVの場合、単純に暴力だけであることはほとんどなく、精神的DV(モラルハラスメント)や経済的DVなどとセットであることが多いです。他者から見て、①経済的自由が極端に制限されている、②何かするのに配偶者の許可が必要、③1日の予定や帰りの時間を細かく報告するなど、配偶者から自由を制限されている様子があれば、DVの可能性が高いと言えます」

①〜③のような様子が見られ、友人知人がDVに遭っているかもしれないとき、どのようにして救い出したら良いのだろうか。

「DV被害者は、『自分が暴力を受けるのは、自分の不出来のせい』だと思い込んでいることが少なくないため、極論を言えば、加害者から引き離すことが一番の救済方法です。しかし、無理やり引き離す前にまず、『あなたは悪くない』ということ、『暴力を振るうほうが絶対的に悪い』ということ、『どのような理由があったとしても、あなたに暴力を振るっていい理由にはならない』ということを、丁寧かつ声を大にして伝えてほしいと思います」

被害者が自分で「逃げたい」と思わなければ、ある意味洗脳状態にある被害者を、第三者が救い出すのは容易いことではない。しかし、DVは命を脅かす可能性もあるため、違和感を抱いたら被害者を根気強く説得し、加害者から引き離すことが大切だ。

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「協議で先に離婚した場合、後ほど家やお金などの財産分与が問題となりますが、離婚後も2年間は財産分与を請求できますので、調停や裁判手続きで自身の正当な権利を主張することが可能です。また、子どもについても、監護権者の指定や子の引き渡し請求、親権者変更等をおこなうことによって取り戻せる可能性があります。ただ、加害者側が子を養育している状況が長引くと不利になる場合も多いので、逃げた後や引き離した後は、なるべく早く弁護士に相談することをお勧めします」(渡辺弁護士)

橋本さんのように、着の身着のまま逃げ出したとしても、調停や裁判で大切なものを取り戻すことはできる。DV被害者をタブー視せず、早く安全な場所に避難させることが先決だ。