BOPビジネスは、貧困層を「消費者」として位置付ける。米国の著名な経営学者で02年に、“THE FORTUNE AT THE BOTTOM OF THE PYRA-MID”(邦訳『ネクスト・マーケット』)を表し、BOPビジネスに火をつけたC・K・プラハラードによれば、「そのアプローチとは、貧困層とパートナーを組み、イノベーションを起こし、持続可能なWin-Winのシナリオを達成するというものだ。そこでは、貧しい人々が自ら積極的に関わると同時に、製品やサービスを提供する企業も利益を得られる」(『ネクスト・マーケット』より)。
この意味でのBOPビジネスでは、欧米企業が先行している。米国のユニリーバはインドで、洗剤やシャンプーを小分けにして安くし(小袋戦略)BOP層に提供することで、成功を収めた。そればかりでなく、地元のNGOと協力し、子どもたちに感染症を防ぐには手洗いが必要だという啓蒙活動も行っている。その知識と習慣は親へと伝わり、石鹸の需要へとつながる。
さらに、いまBOPビジネスは「消費者としてだけではなく、ともにビジネスをするパートナーとしてBOP層を捉える。プロデューサーでありコンシューマーであり、それから企画者としてBOP層を捉える」(日本総合研究所ヨーロッパエマージング・マーケット研究員・槌屋詩野)方向に向かっている。
例えば、オランダの大手電機メーカーであるフィリップスグループは、レンガ製の室内料理用ストーブを開発したが、インドのNGOにその知的財産を無償提供、そのNGOが村人たちに生産・販売のトレーニングをして、村人自身がこれを売るディーラーになるという活動にトライしている。BOP層が貧困から抜け出すのを手伝い、そのことによって、ビジネスを持続可能なものにしようという試みだ。
このような形で、BOPビジネスを展開している日本企業は少ない。だが、「戦後、日本企業は日本の社会の中で、コミュニティを利用したビジネスをずっと行ってきた。もともと私たちが行ってきた商売の原点に、BOPビジネスと限りなく近いアイデアが眠っている」と、槌屋は指摘する。実際、早くから新興国や発展途上国に進出し、成功を収めている日本企業も存在する。その経験はBOPビジネスにつながる貴重なものだ。次回以降、その実例を見ていこう。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時