ホーキング博士のタイムトラベラー実験

これまでさまざまな種類のタイムトラベルを見てきましたが、最後に、現実にタイムトラベルについて実験的な試みを行った学者を紹介したいと思います。

その方は、もう亡くなってしまいましたが、イギリスのホーキング博士です。私も、3年ほどケンブリッジ大学で彼の研究室にお世話になっていたので、馴染み深い人物です。

彼は、タイムトラベラーがいるかということを確かめるためのある斬新なパーティーを企画しました。それは、パーティーを開催して終わったあとに、招待状を公開するというものです。つまり、ただ単に自分だけの秘密のパーティーを企画して、後日、タイムトラベラーに向けてその招待状を一般公開するというものでした。実にユニークなアイデアですね。

写真=iStock.com/Viktoriia Bielik
※写真はイメージです

もちろん結果は誰も来ませんでした。しかも、このパーティー終了後に招待状を公開する時点で、それが失敗することもすでに本人は分かっており、なんとも空しい作業となったはずです。ただのボッチのパーティーで終わってしまった本実験ですが、仮に誰かが来たらどうなっていたのかを、少し思考実験してみたいと思います。

不審者か、本物のタイムトラベラーか

まず、ホーキング博士の思惑通りに、未来でその招待状を見たタイムトラベラーが、過去に戻ってパーティー会場に現れたとしましょう。しかし、その時点でホーキング博士にとっては、彼が本当にタイムトラベラーなのか、ただ運よく食べ物の匂いにつられて勝手に入ってきた現代の不審者なのか区別がつきません。

そこで、例えば次のような提案をしてみてはどうでしょうか。「この紙に、君が見た招待状の文面の中身を覚えている限り正確に書いて、封に入れてくれないか?」。そうお願いして、そこでは、とにかく彼と談笑して飲み食いして解散します。

そして後日、自分が招待状を書いて公開します。このとき、招待状の文面と同じものが封筒のなかから出てきたら、その時点で初めて彼が本当のタイムトラベラーであったかが判定できます。これはワクワクしますね。しかし、ここでふと別の選択肢も考えてしまいます。

仮に彼とのパーティーのあとに、やっぱり気が変わって招待状を公開しないとすると、封筒の中身は変化するのでしょうか? まさに量子力学のシュレーディンガーの猫状態です。招待状を非公開にするならば、白紙の紙が出てくるのでしょうか? だとすると、あのパーティーに彼が現れた理由が、ただの不審者ということになるのでしょうか?

これはある意味、未来に取りうるホーキング博士の行動に自由意志はあるのか? というテーマにもなりそうです。

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例えば、ズルをして、招待状の公開前に封筒をあけて文面を確認してしまうとします。そして、それとは全く違う文面の招待状を書いて公開したとします。その場合、封筒のなかの紙面の文字が変化するのでしょうか?

やはり文章が勝手に変化するというSFチックなことは起こらないのが現実な気がします。仮にその場合でも、彼が未来でなんらかの情報を得て訪れたタイムトラベラーであったことは確認できます。しかし文面が異なるという、不思議な矛盾が残ってしまいます。彼は別の未来から来たのか? 未来が変更されてしまった証拠なのか? 疑問はつきません。

そう考えると、タイムトラベラーが現れ、紙面に書いて封をした時点で、ホーキング博士の未来もすでに決定されていたと考えるのが妥当な気がします。仮に封筒に隠されていた文面を先に見たあとで、それを変更しようと試みても、なぜかそこに書かれた文面通りの招待状を公開することしかできないという運命的な行動をとってしまうのかもしれません。

パーティーに誰かが来てくれていたら、こんなにも楽しい実験だったのかと、実に悔やまれますね。

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