ゴルフ仲間との楽しい食事や練習は封印
しかし、2020年のシブコには海外ツアーでの居場所はなかったはずだ。いくら全英オープンに優勝したといっても、普段の試合で優勝争いから遠く外れていれば、単なる旅行者で終わるのだ。負けず嫌いのシブコにとって、それがどれほどの屈辱になるのか。言わずもがなである。
「もっともっと実力をつけたい。優勝できた三菱電機でのスイングだって100点満点の50点。もっともっと再現性を高めて、常にナイスショットがしたい」
シブコは日本で優勝できたことで満足などまったくしていない。実力を上げて、海外の試合で常に優勝争いを演じたいのだ。そのためには、ゴルフ仲間との楽しい食事も練習も封印して構わない。仲良しゴルフはシブコの中にはもう微塵もない。日本でも一人で練習ラウンド行うシブコの姿をカメラマンたちが見ている。
スタンレーレディスはシブコを含む4人のプレーオフとなった。他の3人には応援する仲間たちの選手が集まっていたが、シブコには一人の選手も待っていなかった。ギャラリーもいない孤独な闘いを勝ち抜いたのだ。もちろん、試合後はSNSで大里桃子など親友が祝福メールを送ってはいたが、たった一人でやり遂げたシブコには新しいシブコの晴れ姿があった。
海外の試合はいつだって孤独だ。キャディもマネジャーもいるが、自分一人で模索しながら新しいスイングを完成させるしかない。真剣に練習し、真剣に試合に臨む。休むことのないハードな日々。日本でもそうありたいし、海外なら絶対である。
だから、日本も捨てる。今年の暮れは日本の最終戦を欠場してアメリカLPGAツアーメンバーになるための最終予選会に挑む。もはや日本は眼中にない。
「グランドスラム」のためにすべてを捨てた
LPGAで勝利し、メジャーにも勝つ。全英女子オープンの覇者として、目標はあくまでメジャー大会の完全制覇だ。世界中の女子プロの憧れである全米女子オープンのタイトルを獲り、全米女子プロやANAインスピレーション、エビアン選手権にも勝つ。こうしてグランドスラムを達成するのだ。
男子のグランドスラムは4冠だが、女子のグランドスラムは5冠である。男子よりも一層達成が難しいのが女子である。
この5冠は時代とともに変遷しているため、本当に達成しているのは、カリー・ウェブだけ。かのアニカ・ソレンスタムも成し得ていない。それだけにシブコは密かにこの5冠女王、完全なるグランドスラマーを目指しているのだ。
メジャーチャンピオンの名を捨て、スイングを捨て、コーチを捨て、仲良しグループを捨て、人気をも捨てたシブコ。すべてを捨てたシブコは新しいシブコとなって、グランドスラムという世界を君臨する女王の座を獲得するつもりなのだ。