日本で社会起業家になったネパール人
この事業は2年目にして日本向けの輸出量が25トンに達したが、ダルマは満足していない。
「例えばネパールではオーガニック栽培の蕎麦が年に2回収穫できますし、コーヒーや紅茶も名産地です。ヒマラヤ山脈に生えている薬草も、今はほとんどが中国や韓国、インドに輸出されて、そこから日本に入ってきてるんですよ。直接取引すれば新鮮なものを安く買えますよね。こういう仕事を通して、ネパールの人たちにいいもの作れば売れる、売れたらお金がもらえる、もらったお金で良いものを買ったり、子どもが学校に行けたり、いい循環が生まれるという日本の仕事の文化を伝えたいですね」
2017年に事業を継承してから4年で、ダルマは売り上げを荒木さんの時代から2倍超の約4000万円に伸ばした。日本に来てから17年。右も左もわからなかった日本で農業に出会うことで、子どもの頃からずっと意識している「社会貢献」も実現するようになった。ダルマは日本で生産者、経営者、そして社会起業家になったのだ。
「私は、日本に来て勉強できて本当に良かったなと思います。仕事の重みというか、仕事の意味が、日本に来てやっとわかりました。荒木さんの後を継いでからは、みんなとワイワイ楽しくできればいいなと思ってやってきて、おかげさまで売り上げは伸びています。今はやりたいことを目一杯やれて、忙しいけど楽しいです」
ダルマは今、ネパールに帰国すると数百人の前で講演し、大臣や国会議員などの要人たちとも会合を重ね、日本の農業の生産技術や流通網などのシステムを取り入れて、ネパールの農業を発展させようと働きかけている。
その胸の内にはあるのは、父親の言葉「みんなのために生きなさい」。