「公的支援に頼るわけにはいかない」という思い込み

「吉川さんは、会社員時代にご自身の精神や身体の状態が悪かったとき、どのようにキャリアを選択し、自分を律してがんばっていましたか?」

彼女は満身創痍そういの状態にもかかわらず、休息を取ることを考えるのではなく、自分にむちを打って、さらに働き続けようとしているのである。客観的に考えると、彼女にいま必要なのは休養と、治療だと思う。しかし彼女は「自分はまだ頑張らなければならない」「公的支援に頼るわけにはいかない」と強迫的に思い込み、どうにか「社会のレール」からはみ出さないように、わらをもつかむ思いで私に相談をするに至ったのだ。

彼女がなぜ私に相談をくれたかというと、彼女の境遇が過去の私の境遇に酷似しているためである。私は貧困家庭に生まれ、虐待や家庭内暴力を受けながら育った。就職と同時に実家から逃げ出し、転職をしながらも会社員をしていたが、25歳のときにうつ病と複雑性PTSDの悪化で倒れてしまい、約半年間は強制的に休養を取らざるを得なくなり、働くことができなくなった。

医師から複雑性PTSDの疑いを受けたのはカウンセリングを受け始めた昨年だったが、発症は2008年(17歳)頃

倒れた直後も生活費の工面のため、「もう少し残業が少ない会社なら働けるかもしれない」と考えて転職を試みたが、知人から「今また働き始めても、きっと体調が悪化するだろうし、同じことをくりかえすだけだ。一度休養して、ある程度回復してからじゃないと厳しいんじゃないか」と説得され、わずかな貯金と失業手当を頼りに、半年間をしのいだ。

そうした経験を著書やコラムでつづっていたのを見て、彼女は「年金暮らしの父親を養っており、貯金もなく、生活費を稼がないといけないので仕事はやめられない自分はどうすれば働き続けることができるだろうか」と相談をくれたのである。

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「助けて」と言わない若者たち

このような若者は彼女だけではなく、これまでに出会ってきた若者たちのほとんどが「自分はまだ若いから働かないといけない」「人に迷惑をかけてはいけない」というある種の規範意識に縛られていて、そのプレッシャーに押しつぶされながらもなお、どうにか自立にこだわろうとする。

そういった相談を受けるたび、私は彼ら彼女らに「正直な気持ちを聞かせてほしいのですが、長期的に考えて、この状態で、これから先も働き続けられそうですか?」と尋ねるようにしている。すると、大体の人が「実は、厳しいと思っている」と答えるので今度は、生活保護の受給を考えたことはあるか、と聞く。

しかしその場合、ほぼ全員が「生活保護はなるべく受けたくないんです」と口ごもり、それ以外の道を探そうとする。生活困窮者が生活保護を受けたがらない理由に多いのが「周りからの目やバッシングが怖い」「そこまでの状況にあるとは思わない」というもので、生活保護への強い抵抗感や、マイナスのイメージが国民に強く根付いていることがうかがえる。