今回のTOBに対して政府(金融庁)の本音としては、SBIによる買収はそれなりに好ましい選択肢だろう。SBIが新生銀行に資金を投じ、リストラや事業改革を実行して事業運営の効率性が高まれば、公的資金回収の可能性は増す。それはわが国の金融システムの健全性向上に重要だ。ただ、政府としては公平な立場で買収の展開を見守らなければならない。

無理やりに買収することの経営リスク

過去3年程度の間、新生銀行の株価は1500円を挟んでもみ合った。新生銀行の株主にとってSBIが4割のプレミアムを付けることは魅力的に映るはずだ。それに加えて、SBIは証券口座と銀行口座の連携によって顧客の利便性を向上させることなど、具体的な成長戦略を明記した。SBIはネット証券分野でシェアを獲得し、さらには銀行ビジネスを強化することによって成長を実現してきた。TOBが新生銀行の改革を加速させ、資本の効率性が高まると期待する株主は増える可能性もある。

ただ、当事者である新生銀行がSBIによる買収に反発していることは軽視できない。被買収企業が反発するTOBは、後々の組織運営に禍根を残す恐れがある。例えば、TOBが成立した場合に当該企業の内部の士気が低下したり、今後の雇用を含め組織運営への不安心理が高まり、人材が流出する展開は否定できない。それは買収を目指した企業の成長戦略の実施にマイナスだ。

現時点で、TOBが価値を生み出すか否かは予想が難しい。新生銀行は買収防衛策を導入する予定で、今後ホワイトナイトを獲得するなど独自路線を維持する可能性もある。SBIによる新生銀行へのTOBは紆余曲折の展開が想定される。

新生銀には事業運営の高い効率性が求められる

重要なことは、事業会社、金融機関に関係なく、すべての企業は、社会の公器として事業運営の持続性と効率性を高めなければならない。そのために経営者は多様な利害を調整して成長戦略を立案、実行して付加価値を生み出さなければならない。特に、世界経済のデジタル化が加速する環境下、企業が成長期待の高い先端分野に経営資源を再配分する重要性は増している。

SBIが新生銀行に仕掛けたTOBがどのような展開になるかは予想が難しい。その状況下で新生銀行に求められることは、より強い決意をもって事業運営の効率性を高めることだ。同じことはわが国の多くの企業にも当てはまる。

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