街乗りに割り切ることで、これまでの「常識」を打ち破った

一方メーカーは電池の高性能化とコストダウンという難問に取り組み、ジレンマの解決を目指す。トヨタ自動車は9月7日に新型の電池開発に2030年までに5000億円をかけて性能アップと50%のコストダウンを実現するという。こうしたメーカーの改善努力は今後も続くだろう。

だが今回の日産と三菱の軽自動車サイズのEVは航続距離を短くし、街乗りに徹すると割り切ることで、これまでの「常識」を打ち破った。

写真=時事通信フォト
公開された日産の軽自動車サイズの電気自動車(EV)「ニッサン IMk」=2019年10月23日、東京都江東区の東京ビッグサイト

日産の日本マーケティング本部の柳信秀チーフマーケティングマネージャーは「お客さんのニーズを徹底的に分析し、EVを買っていただけるように考えた。軽自動車のEVは日本のEV化の足掛かりになると思う」と話す。

想定される客層は一戸建てに住み、登録車と軽自動車を併有している家庭だ。軽自動車より大きな登録車を保有しているので、家族で長距離のドライブも可能なので、軽自動車の方は街乗りに徹することができる。そういった家庭なら軽自動車のEVは十分購入対象になる。

「軽のEV化が地方の移動弱者といわれる人を助ける」

また自治体からも公用車として使っている軽自動車をEVに代えたいとの要望が多く日産には寄せられているという。8月末に来年4月以降の軽タイプのEVの発売を発表したのは、来年度予算での各自治体によるEV導入を促したいからだ。

軽自動車のハイブリッド化やEV化といった電動化は難しいと見られてきたが、私はむしろ軽自動車こそEV化を進めるべきではないかと考えていた。拙著『2035年「ガソリン車」消滅』(青春新書)では、軽タイプのEVの航続距離を150キロほどでいいと割り切れば、電池容量は20kWh程度となり電池コストは中国製なら30万円程度、日本製でも60万円程度で収まると指摘した。EVの場合、車体価格の3分の1が電池コストといわれている。軽タイプのEVの価格を100万円台に抑えることは十分可能だと拙著で書いた。

初代日産リーフの電池開発者であり、現在はベンチャー企業の代表を務めている堀江英明さんも「私は軽自動車こそEV化に向いていると思います。また軽のEV化が地方の移動弱者といわれる人を助けるとみています」と話す。