スマホ依存は我々から心身ともに健全である要素を奪う
——精神科医として多くの患者を診察するなかで、デジタルライフの影響を感じる部分もあったのでしょうか。
そうですね。たとえば私が住むスウェーデンでは現在、睡眠障害を訴えるティーンエイジャーが2000年頃の約8倍に増えています。睡眠薬の使用も急増している。それはなぜか。ある研究によれば、いまのティーンエイジャーの約3分の1は就寝する際、ベッドにスマホを置いていることが判明しました。寝室ではなく、まさに寝るベッドの上にです。
デジタルツールが我々の関心を引くためにどれほど精巧に開発されているかを知ると、それが睡眠にとって有害であることに気づきます。睡眠障害で助けを求めてくる人へは、スマホを寝室から追いやり、代わりに目覚まし時計を枕元に置くようアドバイスしています。実行した患者さんたちからは、思ったほど難しくなかったという声を毎日のように聞きます。
——スマホの使いすぎによる精神的な影響はどの程度あるのでしょうか。
多くの研究は、スマホに依存する人は鬱になる可能性が高まると示しています。ただしこれらの研究の問題は、すでに鬱や不安障害を抱える人を対象にしていることです。それでは、彼らが鬱になったのはスマホを使いすぎたからなのか、鬱になったからスマホをより頻繁に使うようになったのか、正確な因果関係がわからない。
現段階で確実に言えるのは、ティーンエイジャーの女子には因果関係があるようにみえることです。彼女たちがスマホやソーシャルメディアを使いすぎると、鬱や不安障害になるリスクが明らかに増しています。
ただ、こうした例を除くと、一般の人にとってデジタルライフが人間の精神に及ぼす最大の影響は、我々が心身ともに健全であるために必要な要素を奪うことです。不安や鬱に対して有益な運動や睡眠、人との交流といった基本的欲求は、デジタルライフの加速によって希薄化している。デジタルの影響によって我々は防御因子を失い、ますますデジタル媒体に対して中毒になりやすい心身と化しています。
——スマホ依存症になりやすいのは、「タイプA(短気でアクティブな人)」で、「タイプB(おっとりとした性格で落ち着いた人生観をもつ人)」はなりにくいと書かれています。なぜでしょうか。
一つの理由は、不安を感じやすい人はいささか集中力がない傾向にあるからです。ただし、これもやはり因果関係を証明するのは難しい。もともとの性格によってスマホを使うのか、スマホが性格に影響しているのかがわからないからです。
厳密に研究しようと思えば、大人数のグループが必要です。たとえば、200人のうち100人にスマホを使わせ、残りの100人にはまったく使わせない状態を長期間継続して観察する実験が考えられるでしょう。しかし、数カ月、数年とスマホを使えないとなれば、その実験への参加を希望する人はほとんどいないでしょうね。