親と共に介護するヤングケアラーは何を担うのか

Bさんのようなヤングケアラーは、介護関連の書類などで「主介護者」とは書かれない。Bさんの家では母親もかなりの程度ケアを担っていたからである。それでも、家族の生活を経済的に作業的に回していくためには母親だけでは支えきれず、Bさんも相当に重いケアの責任を負っていた。

澁谷智子『ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)

Bさんの両親は共働きを続けながらの介護であり、車の運転が必要になってくる祖父のケア、帰宅後から就寝までと土日の祖母のケア、祖母のケアに関わるケアマネージャーや病院との手続き的なことは両親が担った。Bさんは、働く両親をサポートする形で、放課後から両親が帰宅するまでと、両親が寝た後のケアを担当し、祖母の昼夜逆転の生活やデイサービスの利用拒否、病院や救急車の付き添いにも対応した。

Bさんの家のように、家族で分担してケアをする際には、高校生~20代の若者が、夜間や体力を要するケアを担当するという話はしばしば耳にする。親世代は、経済面や対外的なマネジメント、移動を要するケアなど、大人しかできないことを優先的に担い、まずは倒れないように、そして仕事を続けられるように、体力の温存をはかるのである。

しかし、たとえ若者であっても、夜間のケアが数カ月~数年にわたって続くと極度の睡眠不足になり、その心身の健康状態に影響が出てきてしまう。若者は、すでにがんばっている親を支えるためにもギリギリまで無理をする傾向があるが、本人や周囲による「若さ」の過信には注意が必要である。

自分の行為が「介護」だと認識していなかった

もちろん、ヤングケアラーのなかには、主介護者としてケアを担っている人もいる。さらには、その家庭で「唯一のケアラー(sole carer)」となっている人もいる。たとえば、母一人、子ども一人といった家族構成で、その母が重い病気や障がいを持った場合などには、子どもは「唯一のケアラー」として、母と自身を支えざるを得ない。

しかも、ヤングケアラーは、自分を「介護者」や「ケアラー」だとはほとんど認識できていない。自分のしていることは、単に「生活」ととらえがちなのである。Bさんの場合も、「つらいんだけど」と父に言ったが、「でも家族だから」と言われ、自分の行為を「介護」と意識するようになるまでには数年かかった。

Bさんの話からは、ケアを終えた後にヤングケアラーが抱える喪失感の大きさも見てとれる。ケアをしてきた相手がいなくなったことの喪失感だけでなく、自分が何年も時間とエネルギーを費やしてきたケア役割が突然なくなってしまったことの空虚感からは、そう簡単に抜け出せるものではない。考える余裕ができれば、そこに同世代と自分を比較してしまう思いも押し寄せてきて、さまざまな感情を処理するのが、かなり苦しい作業になっている。

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