入管が「拷問していることを認めている」

ウィシュマさんは、同居していたパートナーからのDVと、その男性から収容施設に送られてきた手紙に、「帰国したら罰を与える」など身の危険を感じるような脅しがあり、帰国ができないことを訴えていた。

2018年1月、入管局長名で全国の入管施設に出された「DV事案に関わる措置要領」の改訂版には、DV被害者にどのように対応すべきかが細かく記載されていたが、職員にその存在さえ周知されていなかったことが「最終報告書」でうかがえる。

ウィシュマさんはDV被害者として対応されることもなく、仮放免(一時的に収容を解かれること)を申請するも不許可となり、二度目の仮放免申請の判断が出る前に亡くなった。

「最終報告書」では、ウィシュマさんの仮放免を不許可にし、収容を続けた理由として、「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり」などという記載している。

これは本来掲げられている「建前」とはかけ離れたものではないだろうか。8月10日の記者会見で遺族代理人の指宿昭一弁護士は、「長期収容による身体的、精神的苦痛を与えて、意思を変えさせることを“何が悪いのか”と開き直っていますが、拷問していることを入管は認めている」と強く指摘した。

全体としても、施設内の医療体制の「制約」など、表面的な改善点を挙げるのみに留まり、収容体制の根本には切り込んでいない。遺族の求める「真相解明」とは程遠いものだ。

遺族だけに見せられた監視カメラの映像

さらに8月12日、入管庁はウィシュマさんが亡くなるまでいたとされる居室の監視カメラのビデオ2週間分を、わずか約2時間分に切り縮め、遺族のみに見せた。

姉が苦しみ亡くなる映像を見ること自体、あまりに精神的負荷が大きいことだろう。ところが代理人弁護士の同席は、「特別の人道上の対応としてご遺族にご覧いただく」「現段階においても保安上の問題などがあることから、ご遺族外への開示は相当ではない」という理屈にもならない理由を掲げられ、認められなかった。

その状況でビデオを見せたこと自体もまた暴力だろう。指宿弁護士は、「代理人の制度を、法務省自ら否定している」、と憤る。

撮影=安田菜津紀
ビデオを見た直後に法務省から出てきたご遺族。ワヨミさん(右から3番目)は、ポールニマさんに支えながら歩いてきた。

結局、ご遺族は1時間10分ほどの映像を見進めた時点で中断し、ビデオを見たウィシュマさんの妹で次女のワヨミさんは、涙が止まらず、嘔吐してしまう場面もあったという。

「人権なんてここに全くありません。姉を助けることはできたはずなのに、犬のように扱っていました」と震える声で語った。日ごろは穏やかに話すワヨミさんの、心からの叫びだった。「すべての外国人の皆さんに伝えたいです。明日はあなたの番かもしれません」。