第2。いまの日本に必要な創造的破壊を生み出すには、技術や市場や組織を個別に追求するのではなく、多層的なシステムとして捉える発想と、政策対応が不可欠である。
そして、それを可能にするのが、インターネット、コンピュータ、携帯、通信、家電に至る最先端の情報技術を、使い勝手がいいように融合してしまう次世代のICTである。2011年頃から実用化される「クラウド※」は、「雲」のように形を変えつつ、上記の最先端技術を呑み込んで形成されていくコンピュータとコミュニケーションが一体化したインフラである。グーグルはこのインフラを使って、個人や小企業の生産性を飛躍的に上げるビジネスを手がけるという。古い量産製造ビジネスが撤退し、環境や教育、医療などの次世代を担う創意に満ちたビジネスが登場する機運が熟しているのである。このインフラ層と、その上のビジネスの可能性は多元的で幅広く、これこそ経済危機を超克する創造的破壊となりうるものだ。
第3。この創造的破壊を担う主体は民間企業であり、個人のアントレプレナーであるが、経済社会のインフラをも含めた上記の意味での多層な創造的破壊を構想するには、もう一つ上の層、すなわち国家ないし政府の調整機能が必要になる。シュンペーターがアメリカでは農務省もアントレプレナーの役割を果たしたと書いたように、危機は新たな指導者を生み出すことを歴史は教えている。政治に悲観するのではなく、ポテンシャルのある若手政治家たちが結束して調整能力を発揮することを強く求めたい。
※「クラウド」については、小池良次氏の同名の近刊書が洞察に富む。