「mRNAワクチン」は人類にとって初めてのワクチン
産経社説は「欧米の各地で有観客のスポーツイベントが開催されている実態をみれば言い訳はできない」とも指摘するが、スケールの大きなオリンピックと通常の競技とを同次元で捉えることはできない。欧米では感染が再拡大しているが、その原因のひとつは有観客でのスポーツイベントだとみられている。
産経社説は書く。
「彼我の差は、ワクチン接種率にある。日本でのワクチン接種は国際社会に大きく出遅れた。国内での薬事承認に時間がかかったのも大きな要因だ。厚生労働省をはじめとする政府や非常時対応に鈍感だった国会の責任は大きい」
このワクチン接種率についても沙鴎一歩は産経社説とは異なる考えを持つ。
どんなワクチンも人体にとって異物であり、必ずある程度の副反応は起きる。まして新型コロナの「mRNAワクチン」は人類にとって初めてのワクチンだ。いまでこそ、新型コロナウイルスに大きな効き目を示すことが分かってきたが、当初は副反応と効果で未知な部分もあった。
非常事態を理由にむやみに進めてはならない
新型コロナのパンデミックが起きても、欧米に比べて感染者や感染死が極めて少ない日本には余裕があった。欧米での接種後の状況を参考にmRNAワクチンの効果と副反応をしっかり見極めることができた。実際、日本の専門家らは見極めにある程度の時間をかけた。
それゆえ、国際社会に出遅れたわけでも、国内での承認に無駄な時間をかけたわけでもない。ワクチン接種は非常事態だからと言ってむやみに進めてはならない。
さらに産経社説はこう書いている。
「『1年延期』の時点で開幕日から逆算し、承認や接種の迅速化を徹底すべきだった。五輪開催への努力は、感染抑止の戦いそのものである。『五輪ありき』は批判の決まり文句だったが、これを徹底していればワクチン接種の遅れで国際社会を失望させることはなかったかもしれない」
産経社説の指摘は結果論に過ぎない。繰り返すが、投与が初めてとなるワクチンは慎重になる必要がある。