大々的に始めた企業ほど「自然消滅」しやすい

ケース4 システム部門に任せたために、開発・ツール導入が増加

システム部門がDXを担当するケースです。

システムの知識を持つシステム部門は、デジタルにも強いと思われがちですが、基本的には現場要件をシステム化するという“受託型”の仕事スタイルです。何をすべきか要件を求め、お抱えのシステム会社に相談しては提案を待つ傾向があります。しかし、システム会社の提案は、最新のシステムや流行しているものの提案が多くなりがちです。多くのシステムツールを導入した結果、費用がかさみ、現場を複雑化させてしまう原因になります。

ケース5 変革するも長続きせず、全社定着に至らず自然消滅

ある程度DXが進んだとしても長続きさせるどころか、全社に定着させることができず、自然消滅してしまうケースです。DXのブームに乗り、大々的にデジタル化の取り組みを行う大企業によく見られるケースです。

DXは全社を巻き込み、トライ&エラーで前進させていくことが常道です。しかし、大手企業がDXに取り組む場合、コンサル会社やシステム会社に膨大な費用をかけて丸投げしてしまうことが少なくありません。その結果、費用にも上限があるため、取り組みが長続きせず、自然消滅してしまいます。もちろん、社内にノウハウは残りません。

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DXが「他人任せ」になってしまう原因

いまご紹介した5つの要因に共通しているのは、「他人任せの意識」です。

では、なぜ他人任せになってしまうのでしょうか。その最たるものが、人材の採用、とくにエンジニアやマーケターの採用にあります。

コロナ解雇が話題となっている2021年初頭の時点において、エンジニア、マーケターともに有効求人倍率は5倍を超えています。他職種の有効求人倍率が1倍前後であることを考えると、その人気は群を抜いています。

採用する企業側は、インターネットに詳しいエンジニアやデジタルマーケティング経験のあるマーケターであれば、DXを進めてくれると思い込んでいるのでしょう。この数年、システム会社や広告代理店に勤めた程度の30歳前後の若手が、採用の過熱から、1000万円を超える年収で採用されているケースもあります。これは何とも異常な状態であり、いびつな雇用格差を起こす要因になっています。

私はこの状況を見ていると、ネットバブル時代の人材獲得の過熱ぶりを思い出します。当時、インターネットブームに乗り、Webデザイナー、ネットワークエンジニア、ゲームクリエイターなどが脚光を浴びていました。ところがブームが去ると、その人たちは皆“ただの人”になりました。ブームに乗って大量採用した会社では、採用した人材が大きな負担となり、リストラせざるを得なくなったのです。

現在の状況は、まさに当時の状況に酷似しています。やがて、このエンジニアやマーケター獲得合戦も、一部の本当に優秀な人材を除けば、落ち着くはずです。しかし、このままでは、当時と同じ過ちをくり返す危険性があります。エンジニアやマーケターへの過度な期待が、DXを停滞させている可能性があるのです。