医師との予診を終えたら、接種レーンに足を向ける。接種ブースに入るまでの9メートル間に次の4つの動作を行うよう誘導される。誘導は口頭ではない。イラスト入りの大きな表示だ。大きな紙の表示は至るところに設置されてあり、しかも、日本語、中国語、ポルトガル語、ベトナム語の多言語表示だ。

豊田市内には外国人も暮らしている。高齢者の次には一般接種が始まるから、それに備えて、当初から多言語表示にしたのだという。目先だけではなく、将来を見据えた準備だ。

提供=トヨタ自動車
会場内に置かれた接種の流れを説明する看板。日本語のほか、ポルトガル語など多言語で説明している

動作にかかる時間を何度も計測して…

さて、話は戻る。

接種ブースに向かう9メートル間には4つの動作を行う。標準的には55秒かかる。

4つの動作を行ったのち、接種ブースに入る(筆者撮影)

①左右どちらの腕にするかの確認を行う(15秒)
②上着を脱ぐ(30秒)
③腕まくり(10秒)
④待機(0秒)

トヨタのスタッフは用意動作を4つに分け、ストップウォッチで計測してから標準計画を作った。計測は一度ではない。自分で何度も腕まくりをして、最適な腕まくり時間を設定したのである。

たとえ、本業でなくとも、彼らは徹底的にやる。そこまでやらなければ接種を4分で終わらせることはできない。

なお、2回目の予約だが、ファイザー製を使っているため、接種後にはきっちり3週間後の予約が完了する。

「会場の改善は仕事の一部にすぎないのです」

接種の支援プロジェクトにかかわっているトヨタ生産調査部主査、高橋智和は「会場のレイアウト改善と接種にかかわる動作の標準化と寄り添い(気配り、目配り、心配り)は私たちの仕事の一部にすぎないし、これは学びの場なのです」と言った。

「ワクチン接種では豊田市、医師会、ヤマトと協力して豊田市モデルを作ることにしました。当社は3つのチームで応援しています」

3つのチームとは接種チーム、輸送チーム、増産チームだ。

接種チームは会場内のルート設定、案内板の掲示といったものを担当する。レイアウトをカイゼンし、滞留の起こらないくふうをする。

輸送チームはヤマト運輸が手掛けるワクチンの輸送カイゼン。増産チームは超低温冷凍庫の生産支援だ。

「ふむ」

会場カイゼンは分かる。しかし、輸送、増産とは何か?

高橋は言った。

「ワクチンは冷凍で輸送、保存しなくてはなりません。ワクチンの品質を保証することと余りが出ないようにすることも、会場設営とともに重要なポイントなんです。ヤマト運輸さんの志、大小を問わない配布先にしっかり寄り添ったきめ細かな物流と品質管理はわれわれトヨタと全く同じ考え方であり、それを豊田市、医師会の皆さんからは初めから受け入れていただきました」

ワクチンの品質保証もまたトヨタ生産方式の考え方からきたものだ。同方式は異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らないという「自働化」と、各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方「ジャスト・イン・タイム」が2本柱とされる。