ウェルネスではなく「ウェルビーイング」を掲げるワケ

【田中】高田社長はWell-Being as a Service(以下WaaS)という概念も打ち出されていますね。

【高田】Vitalityは、リスクに備えるだけではなく、リスクを減らすという新たな価値の提供に挑戦するプロダクトです。ただ、保険会社だけでは「結局、保険じゃないか」と受け取られかねません。そこでさまざまな事業者と一緒になって、「より良く生きる」という価値をサービスとして届けることにしました。そのためのネットワークがWaaSであり、3月末時点ではパートナーは17社に達しています。

【田中】as a Serviceは、アメリカのセールスフォースが打ち出したSoftware as a Service(SaaS)が原点です。セールスフォースはSaaSの中核にカスタマーサクセスを置いています。カスタマーサクセスが起きないと、サブスクであるSaaSは契約更新してもらえないし、売り上げも増えないからです。カスタマーサクセスがas a Serviceの本質だとすると、住友生命は顧客にどのようなカスタマーサクセス――WaaSの場合はウェルビーイング――を提供しようとお考えですか。

【高田】ウェルビーイングという言葉は哲学的です。Beingですから、単一的により良い状態であるウェルネスを指向するというより、より良い存在である、あるいはより良く生きていくということを多元的に示しています。

住友生命の高田幸徳社長

住友生命単独で何かをやるのは、おのずと限界がある

【高田】それを踏まえると、Vitalityで提供しようとしているのは、まず身体的な健康です。また、われわれは金融機関ですから、経済的な健康も提供すべきです。さらに大切なのが、心の持ち方です。個人の精神的な健康はもちろん、社会的な健康にも広がっていくと思いますが、事業者としてそこにどのように貢献して、寄り添っていけるか。それがウェルビーイングだと捉えています。

【田中】SaaSはセールスフォースのマーク・ベニオフCEOの世界観とともに広がっていきました。WaaSを拡大するにあたって、トップリーダーである高田社長の世界観も重要です。高田社長はどのような世界観をお持ちですか。

【高田】住友生命単独で何かをやるのは、おのずと限界があると考えています。ウェルビーイングを提供し続けるには、やはりエコネットワークが必要です。その中心に必ずしもわれわれがいなくてもいい。住友生命が媒介となってみなさんを繋いで、そのネットワークの中からお客さまがサービスや価値をチョイスしていく世界を作りたいです。保険会社の役目ではないと言われそうですが、保険会社を超えることが私のテーマですから。

【田中】オープンプラットフォームの世界観ですね。そのような発想を持つに至ったきつさかけは何ですか。

【高田】元をたどれば田中先生のご著書ですよ。『ミッションの経営学』と『人と組織リーダーシップの経営学』。これらを読んで、ミッションが重要だと腹に落ちました。では住友生命のミッションは何かと突き詰めると、社是の一番目に「社会公共福祉に貢献」とあります。これに向かっていくには、己が為ではなく他を利するために何をするかという発想が欠かせません。それがさまざまなアライアンスやオープンプラットフォーム戦略につながっています。この考えは、住友生命の原点。2030年、2050年に向けて、やり続けていかなければいけないと考えています。

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