保険の「ネガティブなイメージ」を変えたかった

【田中】一般に、保険はサービスを実感しづらい商品だと言われています。Vitalityは効果を感じられるという点で斬新ですが、どうしてこのような商品を作ろうとお考えになったのですか。

【高田】保険は「生老病死」、つまり長生きや介護、病気、死亡という4大リスクに対して経済的に備える仕組みとして開発されました。これらのリスクはどちらかというとネガティブなものばかりですよね。お客さまもそのようなイメージを抱いておられます。私が入社してすぐ、営業をやっていた頃は「入ったけど、かけ損だった」とよく言われました。保険金をお支払いするようなことが起きなかったなら本当は喜ぶべきですが、保険はそのように受け取ってもらえないのです。

ネガティブなイメージですから、営業に行っても基本は断られます。100人に声をかけて、話を聞いていただけるのは10人です。さらに聞いてもらってご契約に至るのが、ようやく1人。99人のお断りがあるわけですから、私たちも少なからず傷つくわけです。そうした経験もあって、生命保険をポジティブなものに変えていきたい、加入いただくことで明るくなれる商品を作りたいという想いはずっと持っていました。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

人間はアドバイスをされると逆にそれをしなくなる

【田中】Vitalityは、基になるプログラムがあったのでしょうか。

【高田】Vitalityは、南アフリカのディスカバリー社が20年以上前に開発をした世界的ブランドのプログラムです。一国一社に導入するという方針があり、日本では住友生命が独占的に販売しています。元々、南アフリカは寿命が短い国でした。そうした社会課題に対して保険会社はどのような貢献ができるのかと同社のファウンダーが考えて、このプログラムを開発したそうです。

【田中】社長就任発表の記者会見では、「デジタルと人で顧客とつながる」と宣言されました。Vitalityはデジタルで顧客とつながる効果的なツールです。将来はVitalityを通して、顧客一人ひとりにパーソナライズされたサービスを届けることも企図されているのでしょうか。

【高田】保険は本来、いざという時のためにある商品ですが、Vitalityはお客さまと毎日24時間、接点を持ちます。今、加入者が約60万人(5月末時点では約69万人)いますので、年間2億日分のデータが入ることになります。このデータを統計的に分析して、今年から加入者に「日常の生活をこう変えるといいですよ」と伝えられるように取り組みを始めています。

【田中】パーソナライゼーションの前に、まずはデータに基づいてセグメントごとにアドバイスをするところから始められているのですね。

【高田】そうです。ただ、人間はアドバイスをされると逆にそれをしなくなるという行動を取ることもあるので、アドバイスどおりにやるとポイント化されるといった取り組みも必要でしょうね。