「個人情報保護より利活用」透ける政府の思惑
「誰もがデジタル化の恩恵を最大限受けることができるデジタル社会をつくり上げる」
「すべての行政手続きをスマートフォン一つで60秒以内に可能にする」
「マイナンバーに預貯金口座をひも付ければ給付金の受け取りは簡単になる」
政府は、デジタル庁の発足に向けて、デジタル社会を彩る美辞麗句を並べ立てた。そこには、個人情報の保護の強化よりも利活用を推進しようとする思惑が透けてみえる。
では、政府が描くデジタル社会は、本当に国民にとって望ましい姿なのか。もっとも留意しなくてはならないのが、国民の個人情報はきちんと保護されるのかという問題だ。
まず、個人情報保護の歴史を振り返ってみる。
プライバシー権が注目されるようになったのは、コンピューターやインターネットなどデジタル社会の進展と密接にかかわっている。
自治体から始まったプライバシー保護条例
欧米での議論が先行する中、国内では1975年に東京都国立市が「個人的秘密の保護」を盛り込んだ「電子計算組織の運営に関する条例」を制定。これが、日本における最初のプライバシー保護条例とされる。
その後、全国の自治体が相次いで個人情報の保護に乗り出し、それぞれの実情に応じたルールが定められた。1984年には福岡県春日市で個人情報全般を保護する条例が初めて制定された。
国レベルでは、自治体の動きにずっと遅れて1988年、初めて「行政機関個人情報保護法」が制定された。コンピューターで個人情報を扱う際の保護のあり方を定めたもので、対象は国の行政機関のみだった。
1990年代後半に入り、ネットの急速な普及にともなって個人情報の保護に対する関心が高まると、ようやく2003年に民間事業者、行政機関、独立行政法人をそれぞれ対象とする3本の個人情報保護法が成立した。
2015年には、ビッグデータの活用を実現するために「個人情報保護法」が改正された。
法改正で自治体が培った厳しい規制が吹き飛んだ
そして今回、デジタル庁創設とのセットで、個人情報保護の法体系が全面的に一新された。キーワードは「統一」だ。
まず、民間事業者、行政機関、独立行政法人の3つに分かれている個人情報保護法を統合し、1つにまとめた。
次に、約1800の自治体や国の行政機関の数だけ個人情報保護のルールがあるという「2000個問題」の解消を図った。個人情報の定義を国が定めて自治体にも適用し、国と自治体のルールを統一するという大ナタを振るったのだ。