2010年頃になると、国際的な観光地にしようと政府が大規模開発をするようになったが、それでも当時、中国本土の人々の目は「海外旅行」に向いていたため、海南島への観光客が大幅に伸びるわけではなく、前出の男性によれば「美しいビーチはあるけれど、のんびりした地方の観光地」というような存在だった。
超大型プロジェクトにテスラも参入
そんな海南島が本格的に注目を集めるようになったのは、免税措置の拡大を実施したのと同じ2020年、政府が「海南省自由貿易港建設全体方案」を発表したことからだ。
これは2025年までに貿易・投資の自由化を進め、2035年までに「関税ゼロ」の自由貿易港の実現を目指すというものだ。国内外の企業を誘致し、所得税や住民税の減免も段階的に進めるという計画だ。
現在はまだ方案の審議中だが、最終決定すれば、優遇措置に魅力を感じる外資系企業が一気に集まる可能性もある。2020年にはすでに米・電気自動車(EV)大手のテスラが「新エネルギー車イノベーションセンター」というR&D(研究開発)センターを設立すると発表しており、他にも40件以上の重点プロジェクトの契約が交わされた。これらの投資総額は170億元(約2660億円)を超えるというビッグなものだ。
「第2の香港」にしたい
しかし、自由貿易港といえば、まず香港が思い浮かぶ。香港では、ごく一部を除いて、ほとんどの品目が関税ゼロで輸入できる。レッセフェール(自由放任主義)をとっており、世界有数の良港がある香港には世界中から国際企業やグローバル人材が集まっていたが、2019年以降の民主化デモや、その後の「香港国家安全維持法」の施行などにより、その優位性は危ぶまれている。
中国人にとって、これまで、香港こそが「買い物天国」だったし、中国の優秀な人材も香港に移住していた。しかし、本土から香港を訪れる観光客は2018年には約5100万人とピークに達したものの、デモが起きた2019年には約2400万人と半減。その後は新型コロナが発生したため、中国から香港への渡航は大幅に制限されている。双方の感情的な悪化などもあり、今後、本土から香港への観光客や人材の移住、企業の投資はますます冷え込むことが予測されている。
そんな中、中国政府は香港に見切りをつけ、海南島を「第2の香港」にしようとしているかのようだ。