他社の工場といちばん違うのは
【野地】それと僕がほかの工場とトヨタの工場のいちばんの違いだと思ったのは、働いてる人がものすごくふてぶてしいんですよ(笑)。
【小山】トヨタの人が(笑)。
【柳井】えっ、どういうことですか。
【野地】たとえば、ある会社に取材に行くとします。どこの会社であれ、オフィス内に入っていくと、働いている人は「早く帰れ」「来てほしくない」という念力を背中から出します(笑)。もう早く帰れって、みんな考えている。
【小山】ところがトヨタは違う?
【野地】はい、「おまえら、いくらでも見て帰れ」みたいな、ふてぶてしさがある。
【小山】親方みたいな、大工の棟梁みたいな。
【野地】余裕があるんでしょう。河合(満)さんって中学からトヨタ工業学園に入って、大学卒ではない元副社長がいるんですけど、すごくおもしろい。その人と一緒に工場に行ったことがあります。普通、副社長が一緒だったらみんな、へへーって感じですよね。ところが、副社長が「おはよう」って言っても、現場の若造は「オッス」(笑)。ぜんぜん動じていない。副社長の前だからといって緊張していない。
「日本人が勤勉」は嘘だ
【小山】野地さんの本には、今みたいなというか、ドラマになったら、ここ一つの見せ場だなというのがちょこちょこ挟んである。
で、僕もまずおもしろいなと思ったのは現場の話でした。(トヨタ生産方式を体系化した)大野(耐一)さんがなかで言ってます。
「日本人が勤勉だというのは嘘だ。工場に視察に行くと、みんなが働くフリをする。目を合わせないようにしてそそくさと仕事を一生懸命やってるんだ、とアピールをする。だが、アメリカのワーカーは『やあ』と声をかけると、ニコニコ笑ったりする」
あれは戦後すぐの話ですよね。
【野地】はい。日本の自動車会社が吹けば飛ぶようなちっちゃな時の話です。
【小山】工場長が訓示するんでしょうね。「今日は本社から偉い人がいらっしゃるから、みんな気を引き締めて」
【野地】小学校の先生が「今日は父兄参観だからみんな手を挙げて」と言うようなもんですよ。