キャディーは黒人、“女人禁制”だった

マスターズは他の大会と比べて特に権威がある一方、最も保守的で、今も人種差別的な側面があると言われている。

開催地のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブがあるジョージア州は、南部の中心地であり、南北戦争では奴隷制廃止に反対して激しく戦った後も、人種隔離でマイノリティーを差別し続けた土地柄だ。ここでプレーする時のキャディーは1983年まで全員黒人と決まっていたほどだ。

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マスターズが始まったのは1934年だが、黒人の参加が許されたのは1975年。会場のゴルフクラブも、会員として黒人が受け入れられたのは1990年。さらに女性が会員になれたのは2012年と、つい最近である。

他のスポーツ大会が次々とダイバーシティ重視に方向転換していくのに対し、マスターズだけは独自の道を歩み続けた。それができたのは、伝統に加えて他の追随を許さない資金力のおかげとも言われている。

なにしろマスターズのテレビ中継は、民放のCBSが担うのにCMが入らない。スポンサーにおもねることもなければ、一般消費者の支持もいらない。それほどのパワーを持っている。アメリカのスポーツ団体でこんなことができるのはマスターズしかない。

しかし、さすがにここ数年は、社会的なプレッシャーもあり少しずつ変化が見られている。今年は大会のキックオフに、46年前初めてマスターズでプレーした黒人リー・エルダーを招き記念のセレモニーを行った。そしてその4日後にマイノリティーである松山が優勝したことを、象徴的に捉える声は少なくない。

アジア系への暴力事件がやまない中…

もう一つ象徴的に捉えられているのが、今アメリカで激しくなっているアジア系へのヘイトクライムとの関係だ。

ニューヨーク・タイムズは「アジア系へのヘイトクライムが問題になっている中での快挙」と報じ、フロリダ州の主要紙マイアミ・ヘラルドは「スポーツでは現実の問題を解決することはできないが、アジア系、特に日本人の気持ちを少しでも上げることができたはず」と書いた。

トランプ前大統領の「チャイナウイルス」がトリガーとなり、コロナウイルスのパンデミックで疲弊した人々が、見かけでは区別がつきにくいアジア系をターゲットに嫌がらせや暴力事件を起こすケースが後を絶たない。

アジア系住民を差別や暴力の犠牲者としてばかりニュースで見せられてきた後で、アメリカの人種ヒエラルキーのトップに位置するマスターズの頂点に力強く君臨した松山選手の勇姿は、多くのアメリカ人にはある意味新鮮であり、希望として映ったのだ。筆者も、アメリカ人の友人から「おめでとう、アジア系が大変な目にあっている時に彼が勝てて本当によかった」と言われた。