今後20年でアメリカに存在する仕事の47%が自動化
さて、そのような学術研究はたくさんありますが、最近発表されたものの中で、仕事の未来予測をするのに役に立つのは、イギリスのオックスフォード大学の研究者であるカール・フーレイとマイケル・オズボーンが執筆した「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」という論文です。
この論文で、フーレイとオズボーンは数値モデルを設計し、様々な業種が自動化される可能性を予測しました。研究の結果は驚くべきものです。今後20年の間に、アメリカに現在存在する仕事の47%が自動化されます。
自動化される可能性が高い仕事は、床掃除や単純な経理、レジ打ちの仕事など、高い技能が要求されず、なおかつ、賃金が低い仕事です。特に自動化のリスクが高いのは、輸送、単純事務、製造業における単純作業です。
フーレイとオズボーンは、ここ10年のアメリカで最も増えている仕事は、それらの分野であるが、いずれ自動化により消えていくだろうと予測しています。
一方で、コンピューターやロボットにも限界があります。高い技能が必要ではなくても、曖昧な判断を必要とする仕事や、創造性を発揮する必要がある仕事、提示された情報を分析して判断する仕事、周囲の環境を判断して考慮するべき仕事などは、自動化することが難しいので、人間が作業しなければなりません。
例えば、デパートでの特定の顧客に対する接客、複雑な症状を抱えた認知症患者とのコミュニケーション、繊細な繊維で作られた家具の掃除、広告の企画、ユーモアのある文章の作成、料理の繊細な盛りつけ、経営判断、従業員のマネージメント、システムの企画や設計などです。
以下のサイトは、フーレイとオズボーンのモデルに沿って、各仕事が自動化される可能性が何パーセントあるかを視覚的に表現したものです。このサイトを使って、サラリーマンが一般的に行っている仕事が自動化される可能性を計算すると、図表3のようになります。
複雑な判断が必要な仕事はロボットにはできない
フーレイとオズボーンのモデルは、AI(人工知能)の研究者たちからは、正確性を欠く、曖昧すぎると批判されていますが、コンピューターが可能なのは、ごく単純な作業だけである、という点は合っているようです。
マンチェスター大学で、人間の脳をコンピューターで再現するSpiNNakerというプロジェクトに長年取り組んでいるスティーブ・ファーバー教授が、インペリアル・カレッジのData Science Instituteが主催した「Data Science Insights」という講義で指摘したことは、複雑な判断やコミュニケーションを必要とする仕事は、しばらくはなくならないだろうという予測の裏づけになります。
私はこのセミナーに出席していましたが、参加者の多くの興味を引きつけたのは、会場のある人が質問した「AI(人工知能)は人間の仕事を奪うか」という質問でした。
教授の回答は、「そもそも、人間の脳がどのように動くかは、人工知能や神経科学者の間でもわかっていない。人工知能が何かを判断するには、コンピューターが実行できるモデルを作って、それをプログラミングしなければならない。しかし、そもそも、脳の動きが判明しておらず、モデルが設計できないので、現時点で可能なのは、ごく単純なことだけです」というものでした。