「史上最高の株価」と「史上最低の金利」は両立しない

現在、景気回復と、お金がジャブジャブな状況を反映して、世界中で株価が史上最高値圏にある。それなら低金利しか得られない長期国債投資には魅力がないはずだ。だから債券価格は史上最低レベルであってもおかしくない。価格と金利はコインの裏表の関係であるから、長期金利は史上最高圏でもおかしくないということだ。

ところが現在の米国の10年もの金利はたったの1.7%。シミのようだ。1980年の20%超え、リーマン・ショック直前の2008年8月の11%と比べてもあまりにも低い。まだかなりの上昇余地があると思われる。

「史上最高圏の株価」と「市場最高圏の国債価格(=史上最低の金利レベル)」は市場原理が働いていれば具現するはずはない。現在の珍現象は世界の中央銀行が長期国債市場に介入したがゆえに起きている。現在の市場には、市場原理が働いていないのだ。

かつての中央銀行は長期国債など購入していなかった。中央銀行の責務の最大のものは通貨の安定だ。30万円の給料をもらっても通貨価値の下落で、1万円分しかモノやサービスが買えなくなったら国民生活がなりたたない。

このため中央銀行は、財務状況の劣化を引き起こし通貨の信用を失墜させかねない金融商品、すなわち価格が大きく上下する株や長期債を購入しなかったのだ。それが鉄則だった。

株価と長期国債価格のいびつな関係は、その鉄則を中央銀行が破ったがゆえに生じた。そして、中央銀行にとって幸いなことは、(日本を中心として)「中央銀行が国債価格をコントロールできる」との幻想に惑わされている経験不足の投資家が存在したことにより、何とか今まで持続してきた。

写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです

景気が回復していけば、いつか長期金利は上がっていく

私が銀行員だった1990年代までは「短期金利は中央銀行、長期金利はマーケットが決める」が市場人間の常識だった。ビジネススクールでもそう習った。建前はともかく、本音ベースでは、今でも世界の中央銀行マンの認識だと思う。

日銀も2016年11月まで「教えて! にちぎん」という一般国民向けのホームページに「中央銀行は長期金利を思いのままに動かせない」と書いていた。それなのに、突然「長期金利はコントロールできる」と書き換えたのだ。異次元緩和で長期国債を爆買いし始めたこととの整合性を懸念したに過ぎないと思う。

たしかに日銀のように他の中央銀行とは桁違いの爆買いを行えば、長期金利をゼロ%に押さえ込むことがしばらくの期間出来る、しかしばら撒いた金を回収できず、後にハイパーインフレを引き起こした歴史から日銀以外の中央銀行はそこまでは踏み込まないし、今後も踏み込まないだろう。