空前の株高が続いている。これは喜ばしいことなのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「コロナ収束を織り込んでいるのだろう。だが、いまの日銀には景気の過熱を抑える手段がない。米長期金利が上昇を続ければ『日本売り』が始まる。株高を喜んではいられない」という――。
ドル紙幣
写真=iStock.com/Pleasureofart
※写真はイメージです

すでに米長期金利の上昇が始まっている

私が昨年書いた本3冊(3冊目は今年になってから発売)すべてに「日本のXデー(=日本売り)を見極めるためには、米長期金利の動向に注意せよ」と書いてきた。そしてこの1~2カ月、まだ穏やかであるものの、その米長期金利の上昇が始まっている。ゆえに私は身構えている。

ワクチン接種が進み、経済回復が見込まれるのが米長期金利上昇の最大の理由だ。市場の人間の常識からすれば、景気が良くなれば、長期金利が上昇(=国債価格は下落)する。景気が良くなると、事業が成功する可能性は高くなる。だから人々は安い金利のお金を借りて事業を行おうとする。

好景気はインフレをもたらす。モノの需要が供給より大きくなりがちだからだ。インフレ下では借金をしていると有利。返済する元利金は名目では同額でも、実質で考えると負担減となるからでもある。借金をする人が増えれば金利は上昇する。

さらにコロナ禍で各国が財政出動を推し進め、その原資である国債を中央銀行が買いまくっている。この行為により世の中にお金がジャブジャブになっているのだから、単なる景気回復以上の金利上昇圧力を市場が織り込んでいくのも納得だ。このインフレ予兆は長期債市場だけでなく貴金属、石油、銅等の原材料、半導体やコンテナ料金の市場からも読み取れることができる。

要はワクチン接種による景気回復を予知し、財政出動でお金ジャブジャブの状態をも反映しての長期金利上昇なのだ。この兆しは、ワクチン接種が順調に進み、かつ更なる財政出動で財政肥大化が懸念される米国で顕著に表れている。他国にとっては経済にとってマイナス要因の石油価格上昇も、世界最大のエネルギー輸出国の米国にとっては景気押し上げ要因として働こう。