経済活動の地方移転で被害額は大幅減少

だが、これほどの危機を認識しながらも、現状では抜本的対策を打ってきていない。

たとえば首都直下型の場合、想定される死者の7割にあたる1万6000人は火災が原因だ。被災地全体で約2000件の火災が発生し、そのうち約600件は消火が間に合わず、同時多発的に大火災が起こると推測されている。

写真=iStock.com/holwichaikawee
※写真はイメージです

建物の過密を減らし、耐震強化を徹底すれば、死者は想定される10分の1の2300人に減らせるという対策も示されているが、対策が進んでいる気配はない。

また、間接の経済被害も、道路や港湾、堤防といったインフラの耐震工事などを進めれば、被害を抑えられるはずだろう。これらの対策には10兆円かかるが、778兆円の被害が530兆円程度に減る試算もある。

財源の問題を指摘する声もあるだろう。それならば、東京一極集中を見直せばよい。経済活動の3割を地方に分散すれば、首都直下地震による被害額は219兆円軽減できるという試算もある。

自然災害はパンデミックとは関係なく襲ってくる。近代日本ではこれらが重なったことはないが、1918~1920年に猛威をふるったスペイン風邪の3年後の1923年は、関東大震災が起こっている。

弱り目に祟り目というが、こちらの都合に関係なくウイルスは到来するし、自然災害も起こる。巨大地震のリスクから目を背けている余裕はないのである。

「富士山は100%噴火する」

災害大国日本で想定しなければならないリスクは地震だけではない。火山だ。万が一、首都圏近郊で大噴火が起きれば影響は広範に及ぶ。京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授は「火山学的に富士山は100%噴火する」と断言している。

写真=iStock.com/pxhidalgo
※写真はイメージです

日本の活火山は現在111あるが、このうち50を常時観測が必要な火山として、24時間体制で気象庁が監視している。

たとえば、2019年から小規模噴火している浅間山がある。江戸時代の1783年に大噴火した際には1600人規模の死者を出した。噴火は約90日続き、火山灰は今の東京や千葉県にまで降り注いだ。

富士山が最後に大規模噴火したのは1707年だが、そのときは16日間、噴火が続き、現在の東京の都心部に5センチ、横浜には10センチの火山灰が積もったとされる。

5センチと聞くと影響がないように思えるかもしれないが、数ミリ積もるだけで、車道は通行不能になり、飛行機などもエンジンが動かなくなり、公共交通機関も麻痺するだろう。物流もストップする。

インフラの崩壊は道路だけにとどまらない。東京湾周辺に集中する火力発電所の発電機は火山灰を吸い込んで動かなくなるだろうし、コンピューターに火山灰が入り込めば通信機能もダウンするはずだ。数センチも積もれば火山灰の重さで送電線は倒壊し、停電は長期化する。農作物も全滅だ。噴火で起きた泥流や火山灰が川をせきとめ、決壊などすれば流域では浸水などの被害もでる。

数百年前に起きた噴火事例を参考に予測すると、こうした地獄絵図が広がる。「たられば」話に映るかもしれないが、現代の大都市で大規模な噴火の影響を受けたケースは世界的にも少なく、モデルケースがない。

政府が試算した首都圏が受ける被害は、噴火後の15日目に都心部では10センチほど積もり、約5億立方メートルの火山灰を都内から撤去しなければならなくなる。これは東日本大震災で発生した廃棄物の10倍にあたる。政府も対策を検討している最中なのが実情だ。

ちなみに、すぐに逃げようとしても、噴火から約3時間で都心は火山灰の直撃を受ける。国外へ逃げるのは難しいだろう。そして、国内ならばどこに逃げたところで、厳しい生活を強いられるはずだ。