閑散とした成田のロビー

とは言うものの、ANAグループが置かれた状況は極めて厳しい。先ごろ発表された2020年4月~12月期決算は、3095億円という過去最大の赤字(純損益)。国際線の旅客数は前年同期比で96%の減。国内線も72%の減と壊滅的な状況である。2021年3月期連結決算の最終利益は、実に5100億円という巨額の赤字を見込んでいる。

チェックインの業務を行う城戸さん。(写真提供=ANA)

夏のボーナスは半分、冬のボーナスはゼロにし、社員の年収を3割減らす大胆な人件費削減策を断行しているが、国際航空運送協会の予測では、旅客需要が2019年のレベルまで回復するのは2024年になる見込みだという。

城戸が言う。

「私は外航(外国の航空会社のこと)の受託業務を担当していますが、緊急事態宣言の出た4月5月はほとんど飛行機が飛びませんでした。閑散とした成田のロビーを見て、とても寂しい気持ちになりました」

城戸が担当するシンガポール航空は、コロナ以前は1日に3便飛んでいた。午前中に1便、午後に2便の搭乗手続きや搭乗口での案内業務をこなすことで、1日が回転していた。

「飛行機が飛んでこその仕事なので、4月5月はこのまま仕事がなくなってしまうのではないかと不安でした」

現在、シンガポール航空は1日1便だけだが、復便している。復便したとはいうものの、仕事量は激減したままだ。

「チェックイン業務以外の仕事がある時は午後も仕事をしますが、仕事が早く終わってしまう日もあります。同期や同僚の中には現職を継続する人もいれば新しい道に進む人もいるので、複雑な心境ではあります」

これまでの恵まれた環境に改めて気づく

仕事量が減ったのは、CAの坂井も同じだ。

「2020年の1月ごろまでは国内、国外問わずに飛んでおりました。国際線はアメリカ路線を担当していましたが、これが月に2、3本。そこに国内線の便が数本ついて、自宅に帰るのは月の半分ぐらいという生活でした」

会議もリモートで参加することが増えた(坂井さん)。(写真提供=ANA)

ところが、4月5月は国際線がほとんど飛ばず、丸2カ月間勤務がなかった。

「とても驚きましたし、不安でした。いまは国際線が月に1回、国内線が月に数便あって、そこにリモートの会議が入ったり、教育プログラムが入ったりという感じですね」

FPによる「マネー・セミナー」なども、会社が用意してくれたという。

「いままでお金のことについてあまり考えたことがなかったので、給与面も含めて、本当に恵まれた環境の中で仕事をさせてもらっていたのだと改めて気づかされました。これからどんなキャリアを選ぶべきか悩んでいる同僚はたくさんいますが、私はいまのところ転身支援制度などを使うつもりはありません」

城戸と坂井は、動揺はしつつも基本的には現在の仕事を辞めるつもりはない。ボーナスが大きく減っている状況で、彼女たちはなぜ、ANAで働き続けることを希望しているのだろうか。