時事通信に「キーパンチャー」として入社したが…
——作中に新聞奨学生を経験した青年が登場しますが、相場さんの実体験だったのですね。
そんな体験の影響か、ぼくは、家がなくなる、仕事がなくなるという危機感が非常に強いんです。専門学校卒業後は、時事通信にキーパンチャーとして入社しましたが、3年目から記者に転属したい、と希望を出し続けました。
キーパンチャーとは記者が殴り書きした原稿を社用のワープロで入力する仕事です。まだパソコンはおろか、個人用のワープロもなかった時代だったので、キーパンチャーは重宝されていました。
しかし入社2~3年目には、キーパンチャーの仕事はなくなりそうだと感じました。ワープロを個人で購入し、プリントアウトした原稿をファクスで送信してくる記者が現れはじめたのです。他のキーパンチャーたちは仕事が楽になったと喜んでいましたが、ぼくは怖くてしかたなかった。
電気自動車に変わったら、この町工場はいったいどうなるのか
その後、経済部の記者となり、日本銀行、東京証券取引所などを担当しました。小説家を志して会社を辞めたのが、15年前です。タレントのゴーストライターなどの仕事をもらって食いつなぎ、やっと小説だけで生活ができるようになった。
元々、記者だったとは言え、いまは特別な情報を持っているわけではありません。一般の読者と同じようにニュースに接して覚えた違和感……この国がひずむ音と言えばいいか、そんなテーマを小説として描いてきました。
——技能実習生の存在を通して感じたのが、格差や貧困、グローバリゼーションの加速、産業構造の変化など、国のひずみだったわけですか。
そうです。たとえば、地元の燕市には自動車の特殊なパーツを製造する町工場がたくさんあります。けれども、これから、どうなるのか。
グーグルやアップルがモーターと電池だけで動くクルマや、完全自動運転のクルマを開発したら社会の仕組みが大きく変わる。町工場は立ちゆかなくなり、たくさんの人たちが働く場を失ってしまうでしょう。