——お金の話というと、何となくおおっぴらにはしにくいイメージがあります。
人間は社会を営む生き物です。そして社会が成り立つにはお金が欠かせません。例えば裁判。人間同士のもめごとは、民事裁判で争うことになりますが、その決着は最終的に「損害賠償」です。お金でいくら払うのか、ということに還元せざるを得ないわけです。どんな人もお金と無縁ではいられません。
プレジデントオンラインはちょうど1年前、「最年長社員」という連載ルポをスタートしました。駅の清掃員や新聞配達員、客室乗務員やIT企業社員などさまざまな業種から、現在13人の最年長社員の生きざまを紹介しています。
企画を動かすにあたり、私は担当編集者に「原則としてフルタイムで働いている人に限ってほしい」とお願いしました。貯蓄が十分にあり、「いくらでも構わない」と余暇の一環で働いている方もいると思います。そうした方は週1回など、限定された働き方のはずです。他方で、フルタイムとなれば、余暇にはなりません。それだけ働く目的があるはずですし、それは稼ぎと無縁ではないはずです。
お金のことを聞けば、その人の「お金に代えられないもの」が見える
絶対的な収入の多寡を伝えたいわけではないのです。その稼ぎはその人にとって多いのか少ないのか? もし少ないならなぜ今の仕事にこだわり続けるのか? お金を起点にそうやって問いを重ねていくと、その人の価値観や人生観が浮き彫りになります。そして最終的には「お金に代えられないもの」が見えてきます。
お金について聞くことは、デリカシーを欠く行為と思うかもしれませんが、人の汚い部分だけでなくきれいな部分も出てくる。私は人間を理解するために欠かせないものだと考えています。
これは個人だけでなく、企業にも同じことが言えます。いい経営者を判断する材料について、経営学者の楠木建さんは「税金をいくら払っているか」と明言しています。税金をたくさん納めている企業や経営者は、それだけ世の中に貢献している。反対に、どれだけ立派なことを言っていても、十分な税金を納めていない企業や経営者は一流とはいえません。これはきわめて明快だと思います。
——プレジデント誌で培ったものが、プレジデントオンラインでも生かされているわけですね。
そうです。今でこそビジネス系メディアといわれる媒体は多いですが、その源流はプレジデント誌にあると自負しています。プレジデント誌は「働く人の関心事」を徹底的に掘り下げてきました。お金にまつわる話はもちろん、自己啓発やスキルアップなども得意とするところです。「ビジネスを扱う」というのは、経済や経営を扱うだけでは不十分。その当たり前のことを、ウェブメディアでも展開していると思っています。