——そうした姿勢はどこから学んだのでしょうか。
カッパ・ブックス創始者の神吉晴夫さんに影響を受けました。かつての出版業界では著者の原稿をそのまま本にするのが常識でしたが、神吉さんは編集者が企画ありきで著者に依頼するという「創作出版」という手法を持ち込み、ベストセラーを連発した伝説の編集者です。その神吉さんは「編集者は庶民・大衆の身代わり、反権威・非専門家である」と言っています。
編集者はたくさん勉強し、取材しなければダメです。ただ自分で書くわけではありません。自分よりも詳しく、うまく書ける人に依頼します。それは「自分が読者だったら、こんな記事が読みたい」という願望の発露です。SNSなど当事者が自ら声を上げる機会はたくさんあります。でも、それだけでは不十分。編集者がいれば、もっとおもしろくなる、というケースもたくさんあります。
「働く人の関心事」であればなんでもOK
——星野さんは2006年から11年間、プレジデント編集部で雑誌編集に携わり、17年からはオンライン編集部で仕事をしています。プレジデントという媒体の良さは、どこにありますか。
「働く人の関心事」であれば、なんでも取り上げられる懐の深い媒体です。私は新卒でNHKに入り、記者として甲府放送局に勤務していたのですが、どこか居心地の悪さを感じて悩んでいました。そのとき書店でプレジデント誌をはじめてじっくり読みました。
その時の特集は、「ビジネスマン全課題」という当時恒例の名物企画でした。「子供がグレた」「妻に無視される」「部下がいつも忘れ物をする」といったお題を、ありとあらゆる識者に聞くというものでした。その中には「子供を殴ってもいいか」というお題をアニメ「機動戦士ガンダム」の富野由悠季監督に聞くという記事もありました。「働く人の関心事」であれば、なんでもできるんですよね。これはおもしろそうだと思って転職して、いまに至っています。
それとプレジデント誌では、たびたび「お金」についての特集をやりました。私は文学部出身で、お金のことは忌避するところがありました。「儲ける」とか「稼ぐ」とか、いやしい感じがしたんです。ただ、経済や金融、経営、投資、家計、保険など、お金について知れば知るほど、「これこそ人間そのものだ」と思うようになりました。