優先順位がぐらついた政権

にもかかわらず、政府は経済活動の継続を優先し、判断が遅れた。その要因の一つとして、インバウンド需要が蒸発したわが国の観光需要を喚起し、国内経済を下支えしなければならないという認識があった。

昨年春先以降に海外からの観光需要が途絶えたことや4月の緊急事態宣言の発令などによって、わが国の飲食、宿泊、交通業界を取り巻く環境は厳しい。その状況下、政府が需要喚起策を実施して事業者および就業者の収入獲得をサポートすることは重要だ。

ただし、そうした政策は国民の安全を最優先して行われなければならない。これまでの政府の対応を基に考えると、菅政権は経済活動の維持を優先するあまり、国民の安全を守るという優先順位がぐらついてしまった。それは、1月2日に1都3県の知事が政府に緊急事態宣言の再発令を要請したことからも確認できる。

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1都3県の「自粛」が経済に与える影響

緊急事態宣言の再発令によって、わが国のGDP(国内総生産)にマイナスの影響が及ぶ展開は避けられない。GDPへの影響を数値として把握するために、いくつかの仮定をおいて試算する。

一つのシナリオとして、緊急事態宣言によって、1カ月間、1都3県に住む世帯の家計が、不要不急の消費を40%減らすと仮定する。2020年7~9月期の名目GDPに基づくと、わが国における家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃は除く)は、ひと月当たり約19.3兆円と推計される。ちなみに、2017年度の県民経済計算によると、全都道府県全体のGDPに占める東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の割合は33.2%だ。

次に、2020年7~9月期の家計調査(全世帯対象)を基にすると、不要不急の消費に該当すると考えられる項目が家計の消費支出に占める割合は51.7%だ。主な項目として、外食、自動車関係の支出、理美容サービスなどがある。以上のデータを用いて計算を行うと、1カ月間で1都3県の不要不急の消費は、1.3兆円減少する。それはGDPの0.2%に相当する。

宣言に効果があるのか不透明

もし、今回の緊急事態宣言が長期化し、適用される地域も拡大すれば、上述したGDPの落ち込み幅は拡大する。そのリスクは過小評価すべきではない。感染症の専門家からは、昨年の緊急事態宣言と同程度の措置を講じたとしても東京都の感染者が十分に減るまでには2カ月程度が必要との見解が示されている。医療体制逼迫の影響も軽視できない。

また、緊急事態宣言が人々の賛同を得られるかも不透明だ。1月5日時点での各地の主要駅や空港周辺の人出データを見ると、人出が前回の緊急事態宣言時を上回っている地点が散見される。つまり、政府が外出の自粛などを求めてきた一方で、社会心理の一部には楽観がある。感染の実態と社会心理(人々の受け止め方)の乖離は気がかりだ。