夫の子育て参加が進む国ほど、夫婦の意見は一致している

次に注目した変数は、夫の子育て負担割合だ。子育てについてのさまざまな質問から、夫の子育て負担割合の平均を国ごとに計算している。そして、意見の不一致の指標として、妻だけが子どもを持ちたくないと答えた割合から、夫だけが子どもを持ちたくないと答えた割合を引いた値を国ごとにもちいている。

図表2に示したように、これらの変数を国ごとにつくると両者が負の相関をしていることがわかった。こうした結果は、横軸に労働時間の男女差をとった場合でも成り立つ。つまり、子育てや労働市場における男女平等が進んでいる国ほど、子どもを持つことについての夫婦間の意見の一致がみられるのだ。そして、そうした意見の一致がある国ほど出生率が高いというのが、この研究で行われた記述的分析の要点だ。

画像=『子育て支援の経済学』

「妻の負担軽減」が、出生率の引き上げに効果的

前の節で紹介した理論の肝は、家庭が負担する子育て費用の総額だけでなく、夫と妻がどのような割合で費用を負担するのかが出生行動に影響を与えることを理論的に示した点だ。つまり、単に子育て費用を引き下げるだけでなく、妻の負担軽減に焦点を当てた政策が、出生率の引き上げに特に効果的であるということだ。

しばしば目にする、「ジェンダー平等は出生率向上につながる」という言説に、経済学的な裏づけを与えたともいえる。そうした観点から考えると、児童手当や子育て世帯に対する税制優遇措置は、妻の負担軽減に焦点を当てていないため、出生率の向上に十分な効果が発揮できないと考えられる。

一方、育児休業政策や保育に対する補助金等は、女性の子育て負担の軽減に特に効果的であると考えられるため、同じ費用のもとでも効果的な政策になると予想される。

それではこうした理論的予測は、どの程度実証的に支持されるのだろうか。出生率の引き上げという目標を掲げている政策にはさまざまなものがあるが、複数の政策を同時に評価して、実証的に優劣をつけるというのはなかなか難しい。