いま言えることは、いちど感染したから、あるいはワクチンを接種したからといって油断してはいけないということです。再感染のリスクはゼロではなく、無症状感染することで知らぬ間に感染拡大の手助けをしてしまう可能性があるのです。

新技術のmRNAワクチンは慎重な見極めが必要だ

欧米で接種の始まったファイザー社のワクチンと、米国で接種が始まったモデルナ社のワクチンについては、もうひとつ知っておいていただきたいことがあります。それは今回のワクチンは、これまで使われたことのない、まったく新しい種類のワクチンであるということです。

これまでのワクチンは、弱毒化あるいは死滅させた菌や、ウイルス、細菌の一部分を精製して作ったものがほとんどです。今回のワクチンは、これまでとは全く異なり、核酸であるmRNA(ウイルスの一部である分子の設計図)を使った初めてのものです。

mRNAをワクチンとして接種すると、細胞内でウイルス分子に変換されて、それに対する免疫反応が起きて、抗体が産生されるようになるのです。

mRNAワクチンはこれまでなかったために、人で発症予防効果がいつまで続くかについて長期的に調べた研究はなく、どのような副反応が起こるのかについても十分にはわかっていません。mRNAワクチンの有用性については、慎重に見極めていく必要があります。

欧米で接種の始まったファイザー社のワクチンについては、臨床研究では90%を超える人で発症抑制効果が認められています。認可の基準は50%ですから、これは非常に強力な効果です。

さらに驚くべきことに、病原体の一部を使うワクチンでは十分な効果が誘導できないことから、免疫系を活性化させるアジュバントという物質を混ぜ込むのが普通なのですが、今回のワクチンには入っていません。それにもかかわらず、新型コロナの一部とアジュバントを混ぜたワクチンよりも、抗体を誘導する効果があることが報告されています(7)

これはmRNAワクチンには、それ自体にアジュバント効果があるからと考えられます。RNAは、細胞内のTLR7という分子に結合して、免疫を活性化するのです。このことによってワクチンの効果を高めていると考えられます。

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強力なワクチン効果は副反応と表裏

TLR7については、この分子の機能が失われている人では、新型コロナの重症化リスクが非常に高いことが報告されています(8)。またTLR7を刺激するとウイルスの初期の排除に重要な自然免疫が活性化され、重症化に関わっているサイトカインストームを抑制するレギュラトリーT細胞が増えます。

このことから、mRNAワクチンによる新型コロナの発症抑制効果は、ウイルス特異的な抗体だけではなく、mRNAによる自然免疫の活性化も関わっていると考えられます。もしそうであれば、この免疫の活性化は一時的なもので、長期間の効果の継続は難しいと思われます。

さらにmRNAの免疫活性を強力に高める作用は、ワクチンの効果を増強すると同時に、副反応のリスクも秘めています。実際、TLR7を刺激して免疫反応を活性化する物質が、人では皮膚炎症を起こすことや、動物で自己免疫疾患を誘導することが報告されています。

今回のワクチンの治験でみられた副反応は、注射部位の痛み、疲労感、頭痛、悪寒、発熱など軽度から中等度のものでした。ファイザー社よりモデルナ社のワクチンで、副反応がやや多い傾向がありました。このような副反応は、一般的なワクチンでもみられるもので、少し頻度が高い程度です。