病院で「雑に扱われた」と感じる瞬間
聞き手となったとき、誰もが無意識のうちに「どんな人が話しているのか」によって話の価値を判断しています。特に初対面の相手から話を聞くとき、聞き手は「この人は誰なんだろう?」「どんな人なんだろう?」という疑問や不安を感じています。
たとえば、あなたがかかりつけ医の紹介状を手に大学病院の医師の診察を受けるとしましょう。担当することになった医師が観察眼に優れ、治療薬の選択が確かなプロだったとしても、診察中、彼がずっとモニターに向かい、電子カルテを打ち込み、一度もあなたと目を合わせなかったとしたら、どう感じるでしょうか?
あなたは「無視された」「雑に扱われた」と感じ、診察の結果にも納得できず、不安を抱えたまま診察室を出ることになるはずです。
医師の立場からすると、あなたは毎日、診断している多くの患者のひとりに過ぎず、い つもと変わらない対応をした感覚かもしれません。しかし、信頼関係が築かれていない初診の段階で、紹介状を読まれ、淡々とした症状の聞き取りがあり、診察が終わってしまったら、かかりつけ医からの「いい先生だから」という言葉も霞んでしまいます。
わずか十数秒の言葉で、印象はガラリと変わる
もし、大学病院の医師が最初にこんなふうに話したら、印象が大きく変わったことでしょう。
「○○先生からの紹介ですね。□□さんの病気に関して、うちの病院は経験豊富なスタッフがいます。私も専門医として何例も診てきました。今、一番不安に感じていることを教えていただけますか?」
言葉にしてしまえば十数秒ですが、ここには大切な2つのポイントがカバーされています。それは医師が持っている「専門性」の紹介と、患者の不安に「寄り添おうとする姿勢」です。
枕となる、わずか十数秒の話があるだけで、あなたは医師の人となりを感じ取り、診察 に対して感じていた不安が減っていくのを実感するはずです。それは「誰に何を言われたか」の「誰」がはっきりと姿形を現すからです。
それでは、聞き手の感じている不安と警戒を取り除き、話を聞く体勢を整えてもらうため、最低限話し手が伝えていくべき情報とは何でしょうか?